こんにちわ、獣医師の白井顕治です。
タイトルといっていいのかというようなタイトルですが、正確なタイトルは「ワンちゃんとネコちゃんの消化器症状について」です。
消化器症状といっても、ピンとこないですよね。
消化器の病気というのは、通常診療の中でも約4割ほどを占め、非常によく受診される診療科といえます。
裏を返せば、それだけ罹患する可能性が高い診療科であるといえますので、お家でペットを観察するうえで少しでも役に立つようにこの記事を書かせていただきました。
はじめに
この記事の情報は、ご家庭でペットのケアの実施や、様子を観察するのに少しでも役に立てばという考え・目的から書かれています。また、すでに病気になっている場合には、その病状の理解の助けになればと思います。
この記事の内容をもとに自己診断してしまったり、「じゃあ病院にかかる必要は無いな!」というように、病状を診断・判断することは絶対にしないでください。この記事に書かれている内容に基づいて判断した結果起こってしまったいかなる病状の悪化や健康状態の悪化について、責任を負うことは残念ながらできません。
また、特定の犬種であったり、すでに持病を患っている場合には今回の記事の内容をうのみにすることはできません。診断医・ホームドクターの指示を最優先に聞いてくださいますようお願いいたします。
この記事で書かれている内容は、標準的な犬種(非短頭種・小型~中型)や標準的な猫を前提に書かれています。
消化器症状って?
さて、消化器症状と聞くと難しく感じてしまいますが、主に遭遇するものは
【悪心、嘔吐、突出、げっぷ、腹痛、おなかが良く鳴る、下痢】
だと思います。
これらの症状は、正常では出ませんが、出たからといって異常とは言えないものもあります。
各項目に分けて、記載していきます。
悪心、嘔吐について
悪心は、吐く前の、気持ちが悪い、なんか乗り物酔いをした時のような、胃のむかつきからくる症状です。症状はペットによって様々です。
- 無症状の仔
- 口をくちゃくちゃ言わせる
- よだれが多い
- よだれをぬぐうので前足が唾液で汚れている
- ボーっとしている
- 食欲が減る(なくなる)
などです。
また、実際に胃の中のものを食道を通じて逆流して口から出す行為を嘔吐といいますが、これは実際に吐物が出てきますので、症状の有無はわかりやすいといえます。
悪心は正常では出現しません。乗り物酔いや消化器疾患、泌尿器疾患や内分泌疾患、投薬、何らかの薬物やワクチンによる副作用、神経の疾患など、様々な病気が悪心を引き起こす原因となりえます。
嘔吐は、正常でも出現することがあります。
(正常とするか病気とするかの線引きは獣医師により異なります)
正常でも起こる可能性がある嘔吐を3つ挙げます。
- (犬・ネコ)急性胃拡張による嘔吐
- (犬・ネコ)空腹時嘔吐
- (ネコ)毛玉を吐く
急性胃拡張による嘔吐は、典型的には空腹時にご飯をがっついて食べ、食後数分で、食べたフードをほぼそのまま吐きます。この嘔吐をした後は通常は元気で食欲もあり、吐いてしまった吐物をさらに食べようとすることも比較的よくあります。
対処方法としては、1回の食事の量を減らして複数回に分けて給仕するか、ゆっくりと食べられるような容器(食べにくい容器)に変更するなどの方法があげられます。
通常、このような対応を行うと、急性胃拡張による嘔吐は速やかに消失します。
次に空腹時嘔吐です。これは逆流性胃炎とも呼ばれ、典型的には空腹時に黄色液体を吐く行為です。
黄色い液体は腸液です。なんとなく、強力な賛成の液体である胃液に耐えられるのだから、胃袋の壁は丈夫なんだなと感じてしまいますが、そんなことはありません。
胃粘膜は酸性には強いですが、アルカリ性には弱いです。腸液は胃酸を中和するためにアルカリ性の液体になっているので、その腸液が胃の中に逆流すると、胃粘膜を刺激して口から腸液を吐きます。
対応としては、空腹時間を短くしてあげることがあげられますので、食事の回数を増やしたり、合間におやつを上げるなどの対応が勧められます。
ただ、発生頻度として何か月かに一回しか発生しないようであれば、そこまで目を三角にして対応をしなくてもよいかもしれません。
最後にネコの毛玉吐きです。
これは、ネコによって行う仔と行わない仔がいます。この毛玉吐きを病的な嘔吐とする考えもあります。
猫が嘔吐をすると「毛玉です」と、吐物の内容を確認しないで毛玉と断定してしまうご家族がいますが、吐物を確認した際には、その中に毛玉がしっかりと含まれているかどうかを確認してください。
毛玉であった場合には、対応できるようなフードにしたり、サプリメントを服用したり、ネコちゃんが性格上許してくれるならば毛量を減らすブラシで毛の量を減らしてあげることも対応になります。
毛玉の原因は体毛なので、特に長毛の品種に多く認められます。通常は毛玉による嘔吐のためには行いませんが、バリカンで毛を短く刈ると、毛玉による嘔吐はなくなります。毛玉が消化管を閉塞してしまい、何度か手術を実施しているような場合であれば、定期的に体毛を短くする対応をすることもいいかもしれません。
以上のような、生理的にも発生する嘔吐も存在するため、嘔吐=病気と、すぐに結び付けずに、発生したときの状況や、吐いたもの、吐いてからの本人の症状をよく観察して獣医師に伝えることが正しい診断のために重要と言えます。
悪心についての観察ポイントとしては
- よだれが多くないか
- 前足がよだれで汚れているか
- 元気や食欲はあるか
などがあげられます。
よだれが多いだけで食欲や元気がある場合には、口内炎などによる口腔粘膜の刺激によって症状が出ている可能性もありますので、口腔内の衛生環境もよく観察すべきです。
嘔吐と吐出について
この二つは、獣医師であっても判断することが難しい場合があります。
どちらも口から食べたり飲んだりしたものを出すことは同じですが、嘔吐は胃の内容物を履いている状態で、吐出は食道内のものを吐き出している状態です。
胃内のものを吐き出すために腹圧を上げて、おええ~っと吐きます。ペットが吐いている場合は、大半が嘔吐です。
吐出が起こるときは、食道に問題があったり、胃の入り口に問題があったりします。
口の中のものを嚥下して、食道の蠕動によって食べ物・飲み物は胃内に運ばれますが、その一連の動作がうまくいかないと、いつまでも食べたものが食道内にあり、気持ちが悪くなって、かはっと吐きます。
その際には腹圧を上げずに咳のような症状と一緒にバーっと吐いてしまうのが特徴的ですが、吐出や嘔吐の症状によっては、どちらかの判断が非常に難しいこともあるため、吐く様子を動画に保存しておくという事も重要です。
吐出を起こす病気は、誤嚥性肺炎を発生させるリスクもあるため、吐出が疑われる場合には早急な受診をした方がよいでしょう。
嘔吐や吐出をしてしまっているときの観察ポイントとして、
- 元気や食欲はあるか
- 固形物を食べて吐くか
- 水を飲んでも吐くか
- 食事内容を変更したか(おやつや歯磨きガムを含めて)
- 食べたものはすべて吐いてしまっているか
- 食後どのくらい時間が経過してから嘔吐するか
- 散歩に行くことはできるか
- 異物を食べてしまう癖はあるか
- おもちゃを壊して食べてしまう可能性はあるか
- ゴミ箱をあさったり、散歩中に草や石を食べてしまうことはあるか
- 便の中にこれまでビニールひもやじゅうたんの毛など、食べ物ではないものが混ざっていたことがあるか
- パグやフレンチブルなどの短頭種か
などがあげられます。
腹痛、おなかがぐるぐるいうことについて
腹痛やお腹がぐるぐるいうという症状は、発見が難しいという事と、確定が難しい症状です。
まず、腹痛は、本人にしかわからない症状であるという点と、腹部の痛みに関して、感じ方がワンちゃんや猫ちゃんのそれぞれの個体によって違うという点がより発見を難しくさせています。
つまり、少し痛いだけで、痛そうな症状を出す仔もいれば、かなり痛いはずなのに超元気に動き回るような仔もいるという事です。
腹痛があり、本人が自覚症状として痛みを感じている場合には、
動かない、元気がない、お腹を触るとキャンとなく、ご飯を食べない、呼吸が早い
などの症状が発生する可能性があります。
余談になりますが、この「お腹を触るとキャンとなく」というのは、良く主訴で来院される主訴ですが、これは実際に腰背部の痛みと誤診されることがあります。
端的に言うと、腹痛と椎間板ヘルニアが誤診されてしまうことが割とよくあります。
手で触った時に、お腹も腰も近い位置にあるので、そこのあたりを触った時にキャンとないたからといって、痛いのがお腹なのか腰なのかは判断することが難しいケースもあります。
また、おなかがぐるぐるなっている、おならが多いというのも消化器症状として考えられますが、これらは生理的にも発生することですので、「いつもと比較すると多い」ということがこの症状が出ているかどうかの判断ポイントとなります。
ただし、この症状しか出ていない場合には、検査対象や治療対象にするかどうかは判断が難しいです。おなかが鳴ったり、おならが多いだけで本人が痛みや不快感を感じていない場合には、経過観察を行う場合もあります。
フードを変更した、抗生剤を投薬したというときに発生する場合もあります。
下痢について
下痢は、通常よりも多く水分を含んだ状態の便を排便する症状です。こちらも、嘔吐と同様に、下痢が出たらすべてが病的というわけではなく、生理的にも発生する症状と考えて良いでしょう。
生理的に起こる下痢としては、食べすぎたことによる下痢や、急な食事内容の変更による下痢などがあげられます。
病的な下痢としては、主に小腸に異常が生じて起こされる小腸性の下痢と、大腸に異常が認められる大腸性の下痢、そして小腸性と大腸性のどちらも起きている3パターンに大別されます。
下痢の回数や、便の水分含有量、出血の有無により鑑別を行い、どの部位に主な炎症が起きているかを判断していきます。
- 下痢が出てしまった場合の観察ポイントとしては
- 普段と違う生活の変化があったか(旅行や家の工事など)
- 食事内容の変更があったか(おやつや歯磨きガムも含めて)
- シャンプーをしたか
- 下痢の状態はずっと同じか、改善することもあるか、悪化しているか
- 下痢の回数はどのくらいか
- 元気や食欲はあるか
- 尿は出ているか
などがあげられます。
おわりに
一緒に生活をしていても、消化器症状は比較的ご家族が気付きやすい異常だと思います。この記事の内容をもとに、消化器症状への気づきや理解が深まれば幸いです。
最後に、繰り返しですが、この記事の内容をもとに自己診断や、病院に行く・行かないを判断することはおやめください。あくまで一般的な消化器症状に関しての情報として補足的に活用してくださいますようお願いいたします。
ペットが吐いてしまう、下痢をしてしまうなどの消化器症状でお困りの場合には、お気軽にご相談ください。
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著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)副院長
獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。