こんにちは、獣医師の白井顕治です。
この記事では、猫を飼育する上で、ストレスになりえることを実例を交えつつ紹介させていただきます。
ー断り書ー
ペットにおけるストレスに関連する診療科としては行動科、問題行動対応、のような科が該当されると考えられますが、私は行動学の専門ではございませんので、一般診療の一環として行っている情報やアドバイスを掲載させていただきます。
行動学の専門の先生による情報発信があった場合にはそちらの情報を優先して採用してください。
目次
はじめに
まず、いくつか念頭に置いておきたいことがあります。それは、生きているということは、ストレスとうまく付き合っていくことが必須であり、ストレスが全くない生活というのはどのような状況であってもあり得ません。
なので、「ストレス=悪」とは、必ずしも言い切れません。
例えば人間に置き換えても、今日は天気が雨、最近友達とうまくいかない、仕事で失敗をしてしまった、ネットで注文したものが届かない、試験が近いなど、様々な要因がストレスになりえますが、いい意味でストレスとうまく付き合っていく毎日を、だれでも送っていると思います。
ただ、あまりに大きなストレスがかかってしまうと、うまく発散させることも付き合うこともできずに異常な行動を起こしてしまうこともあります。
つまりは、現状として異常行動やストレスに関連した病気を起こしていないのであれば、あえてストレス源を探して改善させるということを行う必要はないと思います。繰り返しになりますが、どのような生活をしていてもある程度はストレスがかかるものですし、何より現状安定しているのに、生活様式をころころ変更するということもまたストレスになりえるためです。
ストレスがかかってしまった結果、猫には様々な異常行動や疾患が発生するため、猫ちゃんの診療を行う上で避けては通れない話題です。
何がストレス源になりえるかは、その猫ちゃんによって異なりますので、「うちの猫にも当てはまるかな?」というような気軽な気持ちで読んでみてください。
ストレスの結果として、猫はどのような問題行動を起こすのか
まず、生きていることはすべてストレスの連続であるということは前述しました。なので、ストレスがかかっているというのはどの猫でも当たり前のことです。しかし、「その猫に耐えきれないストレスがかかっているか」というサインが発見できれば、今自分の飼育している猫が、ストレスとうまく付き合えているのか、耐えきれなくて異常行動を示しているのかが察知できるかもしれません。
これは行動学的な話になりますが、猫に過度なストレスがかかると、
- 嘔吐回数の増加
- 過度なグルーミング
- トイレ以外の場所での排泄
- 狂暴化(性格変化)
- 血尿
などの行動を起こすことがあります。
こういった行為は、すでに病気が発生していて、その病気が原因になっていることもあるため、注意が必要です。
根底としてストレスに対して発生した以上の場合には、単純な内科療法では完治しないことが多いため(1)、ストレス源を考えていく必要があります。
猫におけるストレスと病気の関係
一概にすべてを関連付けることはできませんが、ストレスが過度にかかり、交感神経が活性化することにより、種々の異常につながっていくと考えられています。
繰り返しになりますが、ストレスがかかったとしても、うまく発散したり、適切にリラックスして生活することができれば、すべてのストレスが疾患にかかわるわけではありませんが、受け止めきれないストレスは体に良くないよという、当たり前の話です。
ただ、生きている間にかかってくるさまざまなストレスに対して、減らすことができないストレス、減らすことができるストレスがあります。
また、何かのストレスがきっかけになったとしても、猫にとってそのストレス自体も重要ですが、そこに至るまでにかかったほかのストレスも減らせる可能性もありますので、きっかけがあったとしても、それ以外の生活からくるストレスも評価することが重要です。
ストレスを受けやすい猫の性格
同じ事象が起こったとしても、すべての猫が同じようにストレスを感じるかといえば、それは違います。人間に例えても、英語が得意な人は英語の試験に対して、さほどストレスは感じないと思いますが、苦手とする人にとってはそれよりも大きなストレスがかかるはずです。
統計的には、純血の猫や、臆病、神経質な性格、人が来ると隠れたりする性格の猫は、そうでない猫と比較してストレスを感じやすいといわれています。
また、ストレスを発散させにくい生活として、完全に屋内の生活があげられますが、現状国内で飼育されている猫の多くが完全室内飼育を行っているため、ストレスが要因で発生する病気は、ある意味では猫の現代病といってもよいと思います。
猫のストレスになりえる事象
前述のように、様々な理由がストレスになりえるわけですが、ここでは、「これをきっかけに体調を壊した、病気が発生した」と特定できたものを列挙していきたいと思います。
- ・同居のペットが亡くなった
- ・新しいペットを飼い始めた
- ・窓の外に野良猫(飼い猫)が見える
- ・近隣で工事が始まった
- ・好いていた家族が入院してしまった
- ・家に来訪者が多い
- ・単身赴任のご主人が帰宅する(ご主人は猫が好き)
- ・一人暮らしをしていた子供が帰省した(子供は猫が好き)
- ・孫が遊びに来る
- ・赤ちゃんが生まれた
- ・餌が変わった(食べてはいる)
- ・トイレの素材を変更した(使用してはいる)
- ・トイレの位置を変えた
- ・引っ越しをした
- ・エアコンが壊れて、変な音が出ている
- ・自由に部屋を行ききできない
- ・食器を変更した
- ・飼い主がトイレに行くたびに見ている
- ・プライベートな空間がない
- ・掃除をするロボットを購入した
- ・芳香剤を使用した
- ・これまで外に散歩できたが、外出禁止にした
などがあげられます。
実際にはこれらのような事象がなかったかを診察中に聞いていきながら、ひとつずつしらみつぶしに解消していき、猫の行動の変化を観察していきます。
猫のストレスの解消方法
前述のように、完全屋内飼育という時点で、ストレスはたまってしまうものです。人間だって、例えば「一流のホテルに泊まり、好きなルームサービスを頼んでいいし、マッサージやジムも好きなだけ利用していいです。ただし、ホテルからは一歩も出ないでください。」という条件を付けられたら、楽しいのは最初のうちだけで、「やはり外には出られない。自由を奪われている。」を言うストレスを感じてしまうと思います。
ただ、外飼いが良いかといえば、交通事故や猫同士のけんか、帰ってこなくなってしまう、エイズウイルスや白血病ウイルスなどの感染症の恐れがあるため、やはり外へ出すことは勧められません。
まず、猫としてはプライバシーがあることを喜ぶ傾向にあるようなので、猫だけの空間を作ってあげて、そこにはあまり近づかないようにしてあげるといいと思います。動物病院に行こうとすると必ず隠れる場所、逃げる場所、よく一人でくつろい腕いる場所などがその猫が最もプライバシーを感じられる場所なのかもしれません。
次に、発散させるような行為として、狩猟行動があげられます。
何か獲物を捕るような動作は大きなストレス発散になりますので、そういうおもちゃを使用してみたり、中には、同居のペット同士で疑似的に狩猟行為をして遊んでお互いに発散させていることもあります。猫は多頭飼育をするとそれだけでストレスホルモンが上昇しているということが指摘されています。それは事実ですが、猫同士が互いに標的になって疑似的に狩猟行為を行うことによって発散されるストレスがあるということもまた事実です。
ほかにも、いくつか穴をあけたペットボトルの中に餌を入れ、ペットボトルを転がすと餌が出るようになるおもちゃを使用してみたり、ケージに入れてお庭やベランダで日光浴をさせてみたりと、その猫ちゃんに合った方法を実施してみるとよいでしょう。
ストレスの感じ方に個性があるように、発散の仕方にも個性があります。
おわりに
猫と暮らすうえで、やはり人間側にも人間の生活があるので、猫を最優先に生活するということは実際にはなかなかできることではありません。最優先にできないなら飼ってはいけない!と怒るのも、やはり行き過ぎた考えだと思いますので、大切にしつつ、ストレスのサインを見つけたら、可能な限り解消していきましょう。
猫ちゃんの体調不良でお困りのことがある場合には、お気軽にご相談ください。
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(1)
内科療法が一切効果がないとは言えません。ただ、根底に原因が残っているにもかかわらず、それを特定できない状況で治療を行っていく場合、「様子を見たり、対症療法を行うことによって改善はするが、治療終了してしばらくするとまた再発して、治療してを繰り返す」という状況になってしまうことが多々あります。
著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)副院長
獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。