
目次
~「動かない=正常」と「食べさせない勇気」~
急に気温が下がるこの季節、
爬虫類の来院理由が増加します。
代表的な症状は:
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食べない
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動かない
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便秘
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消化不良(未消化便)
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眼の腫れ
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呼吸器症状
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下半身の麻痺のような姿勢(実は低体温の硬直)
飼育者の共通の悩みは:
「とにかく動かないんですが、病気ですか?」
この問いに対する答えは、鳥と正反対です。
❄️ 寒い時期、爬虫類は「動かない」が正解
爬虫類は 変温動物です。
体温は外気温で決まり、
代謝(消化・免疫・筋力)もすべて温度依存です。
つまり:
気温が低い=代謝が落ちる=動かない
これは 正常な反応です。
逆に、
「寒いのに動いている」方が危険な場合もあります。
(代謝が追いつかず、臓器に負担がかかります)
大切なのは **“動くかどうか”ではなく、“適切な温度で暮らせているか”**です。
🧬 なぜ「食べない」のか(生理学)
変温動物は 代謝が温度で変わる生き物です。
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温度が高い → 代謝が動く → 消化できる → 活動する
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温度が低い → 代謝が止まる → 消化できない → 動かない
冬は “胃腸が動いていない”状態になります。
この状態で餌を与えると:
❗「餌が胃腸に残る」=“詰まる”
結果:
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腐敗(未消化物)
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ガス・膨満
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腸炎
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内部で細菌増殖
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敗血症
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死亡
につながります。
つまり “食べさせたい優しさ”が最大の危険です。
冬は:
“動かない=正常”
“食べない=正常”
この考え方を知ることが、事故を防ぎます。
🔥 「暖め方」を間違えると、逆に危険
爬虫類の保温で重要なのは、
“正しく暖める”と“逃げ場”
です。
よくある誤解:
ケージ全体を均一に温めれば安心
実は逆です。
爬虫類は自分で体温を調整するために:
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高温スポット(ホットスポット)
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低温スポット(逃げ場)
が必要です。
この「温度勾配」がないと、
逃げられず、ストレスや過熱・火傷が起きます。
🐢 【例1】パネルヒーターによる“低温火傷”の仕組み
あなたの病院にも来た例:
「パネルヒーターでお腹・甲羅を火傷したリクガメ」
なぜ起きるのか?
**理由は“皮膚感覚の違い”**です。
哺乳類:
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熱い→痛い→逃げる
爬虫類:
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温度感覚が鈍い
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低温すぎても動かない
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「熱い」ではなく「心地よい」で動かない
さらに:
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パネルヒーターは 局所的に50℃以上になることがある
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“サーモスタットなし”だと温度が上がり続ける
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リクガメは体が重い=長時間同じ場所
→ 低温火傷(ゆっくり組織が壊死する)
つまり 火傷なのに“熱くないから逃げない”。
火傷が深く、気づいた時には感染・潰瘍に進んでいるケースもあります。
対策(重要):
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必ず サーモスタットを使う
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厚い床材を敷いて、直接にしない
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温度計を床面に置く
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温度勾配をつくる
🦎 【例2】便秘・下半身が弱った“レオパ”
低温で代謝が落ちると:
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腸が動かない
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便が溜まる
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ガスが発生
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腹圧で動きづらくなる
これは **麻痺ではなく“代謝停止による便秘”**です。
さらに:
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寒い=動かない
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動かない=筋力低下
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同じ体勢が続く
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床ずれ(接触性皮膚炎)
が起きます。
治療方針は:
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温度を正す
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水分補給
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圧迫解除
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消化器の動きを促す
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感染の有無を評価
この順番になります。
🌡️ 正しい温度管理(基礎)
ポイントは:
“温度を作る”ではなく“温度帯を設計する”
です。
必要なのは:
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ホットスポット(高温)
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ミドル(中温)
-
クールスポット(低温)
この 3つの層です。
「温度全体」ではなく「温度の差」を設計します。
🔥 器具選びの考え方(種類別)
🐢 リクガメ
必要なのは 太陽の代わりです。
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ライト式ヒーター(遠赤外線)
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バスキングライト
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UVBライト
理由:
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甲羅と体の上部から熱を吸収する
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“太陽の熱”が生理的
さらに:
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床温も必要(パネル)
→ 併用が正解です。
リクガメで危険な例
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パネルだけ
→ 上半身が冷える
→ 代謝不良、火傷、便秘 -
ライトが弱い
→ ビタミンD不足、栄養不良
🦎 ヒョウモントカゲモドキ(レオパ)
必要なのは **“地面からの熱”**です。
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パネルヒーターが中心
(底面温度 30~32℃を目安)
理由:
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自然界でも岩・地面で保温
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紫外線要求が低い種
(※最近は「UVB必要」派が増えているが、今回は寒さ対策に限定します)
ただし:
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クールスポットを必ず設ける
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温度が上がりすぎないようサーモ必須
危険:
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パネル+光ヒーターで 逃げ場がない
→過熱・脱水・火傷
🧭 器具の設置方法(実例)
【リクガメ】
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左側:バスキングライト
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床:パネルヒーター
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右側:何もない(逃げ場)
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上部:UVBライト
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温度計を2~3か所
温度帯:
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バスキング:30~35℃
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ミドル:25~30℃
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クール:20~25℃
【レオパ】
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底面1/3にパネル
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他は床材のみ
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シェルターを温冷2か所
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温度計を床面に設置
温度帯:
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ホット:30~32℃
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クール:22~26℃
⚡ 寒い時期に起きる“飼育者側の事故”
❌ 寒いから餌を増やす
→ 消化不能で腐敗
❌ ケージ全体を均一に温める
→ 逃げ場がない=ストレス・過熱
❌ サーモスタット不使用
→ 低温火傷(ゆっくり壊死)
❌ 布で覆って密閉
→ 過熱・酸欠・火災
❌ 温度計がない
→ 体感で判断=事故
🧭 「冬はこう考える」と安全になる
① “動かない=正常”
② “食べない=正常”
③ “温度帯を設計する”
④ “逃げ場を必ず作る”
⑤ “サーモ+温度計で管理”
この 5つを理解するだけで事故が減ります。
鳥とは真逆で、
“冬に動く”ことが危険になる場合もあります。
🩺 受診の目安
以下の症状があればすぐ相談してください:
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明らかに痩せた
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便が出ない・膨満
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フンが水っぽい・臭い
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眼が腫れている
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口を開けて呼吸
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下半身が動かないように見える
(実は便秘・低体温による硬直が多い)
冬は 「様子を見る」判断が危険です。
📝まとめ
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爬虫類は変温動物
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動かない=正常な反応
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冬は食べない=正常
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寒い状態で餌→消化停止→腐敗
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保温は“温度帯の設計”
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ホットスポット+逃げ場
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パネルだけは危険(火傷)
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サーモスタット必須
- 高齢・幼体は特に注意
著者プロフィール

白井顕治(しらい けんじ)院長
獣医師、医学博士
日本動物病院協会(JAHA)獣医内科認定医・獣医外科認定医・獣医総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。
当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。
