(※症例の患部の写真がございます。苦手な方はご注意ください)
(※記事内の画像は、四肢の病変のイメージとして掲載しています。断脚を実施していない症例の写真も使用しています。)
犬と猫の断脚とは?
アンプテーションとも言い、前肢もしくは後肢を切断することを断脚術と呼びます。
断脚術の適応となる状態とは?
理由の分け方によりますが、医学的な理由である場合と、費用やケアの可否から断脚術が選択される場合に分けられます。
医学的に断脚術が選択される場合とは?
主に悪性腫瘍や回復不可能と判断される深部進行性の感染が認められる場合にこのような決断をされることがあります。
最も多いケースとしては、四肢に発生した骨肉腫の緩和目的の断脚術があげられます。
腫瘍による断脚では、骨肉腫以外にも骨や関節を溶かしてしまう腫瘍の場合には基本的に断脚が選択肢になりますので、組織急性肉腫や滑膜肉腫、軟骨肉腫、そのほかの肉腫など、骨融解を起こす肉腫の場合は断脚術を実施す津可能性があります。
そのほかにも何らかの理由により四肢端が壊死してしまった場合にも切断が選択されることがあります。
腕神経叢裂離や尺骨神経障害を起こしてしまった場合なども、断脚を行う可能性があります。
他には、歩行や四肢を動かすうえで重要な神経が何らかの理由により障害されてしまった場合も、断脚の適応となる場合があります。
その他の悪性腫瘍に関しては、断脚術が必須である場合と、技術的にぎりぎりのマージンを取ることができないために断脚術が選ばれる場合があります。
子猫の壊死してミイラ化した下腿
パイプ椅子に挟まったことによって下腿への血流が遮断されてしまったことが原因
交通事故による上腕骨及び肘関節の開放性の関節内骨折が起こった。
患肢修復による期間や費用が許容外であったため、断脚を選択することとなった。
手術翌日、起立して食事をとっている。
医学的以外で断脚術が選ばれるケースとは
複雑な損傷の場合、四肢を温存して治療するために長い時間や複数回数の手術が必要な場合があります。そのため、断脚術と比べると治療期間や治療手順が多くなる傾向にあります。
例としては四肢の複雑開放骨折や交通事故、大型犬やイノシシなどに咬まれた傷、四肢への銃創などが該当します。
上腕に全周性の潰瘍が形成された犬
前腕に大型の腫瘍が形成された猫。当院で検査したところ良性腫瘍であることが判明し、断脚は実施していない。
指間に形成された犬の肥満細胞腫。十分なマージンを確保する目的で断脚を考えたが、ご家族と相談し指部の切断のみで経過を観察することとなった。
切除後、4年経過しても腫瘍の再発は認められない。
前腕部に悪性腫瘍が形成された犬。足を温存することを目的として、肩甲部から皮膚を移動させる計画をしている。
マージンを確保して切除した後
このようなケースの場合、断脚術より手術時間は長くなり、移動させた皮膚が生着するためにかかる時間も長くかかる。
費用的な部分と、傷の消毒やケアなどをおとなしくさせてくれる性格の個体であるかという点も、治療方法を考えるうえで考慮すべきことである。
犬と猫の断脚術の費用は?
持病や年齢、前肢か、後肢か、または切断する脚部以外の治療費によって治療費が異なります。
まとめ
断脚を実施した場合、再びもとには戻すことはできない処置であるため、決断は慎重に行うべきものです。
地域や家族にとってのペットの存在位置により、かけられる時間や労力、費用が異なるため、それらを総合して判断すべきですので、一概に「断脚は良くない」、といえるものではありません。
温存を優先したことによって、患肢から敗血症を起こしてしまう可能性など、命を脅かす状態が発生することも考えられます。
ただし、「断脚をするしかない」といわれている状況であっても、断脚をせずに済む場合もあるということもあり得ます。
断脚をするように勧められた場合など、セカンドオピニオンが必要な場合にはお気軽にご相談ください。
著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)院長
獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。
当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。