ひも(紐)状異物の定義
細くて長いものが、通常ひも状異物として呼称されています。ネコは舌で手繰りながら紐を飲んでしまうことがあります。裁縫用の糸やおもちゃの糸、髪留めのゴムやマスクの紐、ビニールひも、セロハンテープなどがあげられます。
コロナ禍では使い捨てマスクの使用頻度がこれまでとは比較にならないほど増加したため、マスクの紐を食べてしまったというワンちゃんや猫ちゃんの診察が多くなっています。
その他、猫での誤食は少ないものの、ストッキングや台所の三角コーナーのネットなども、伝線するとひも状異物となります。
紐の形状による違い
ひも状異物を飲み込んでしまったといっても、その時の形状も重要となります。つまり細かくかみちぎって飲んだ場合はもともとはヒモですが、飲み込んだ状態はヒモと呼べる長さではなくなっている可能性もあります。
一般に紐が長いほど、細いほど症状が重度になり、悪条件がそろうと広い範囲の腸管が穿孔して死に至る可能性もあります。
また、ただの長いひもの場合にはあまり症状を出さず、どこかに引っ掛かる構造があることが重要です。引っ掛かる場所として、舌根部に紐が引っ掛かっていることがあるため、ひもを飲み込んでしまった場合には口腔内を精査しましょう。
そほのか、ひもを飲んでしまうような癖のある猫ちゃんは、ひも以外の者も誤嚥してしまっている可能性があります。今回誤嚥した異物がひもだけだったとしても、胃内にある毛玉や過去に食べたヘアゴムなどの異物と絡まって、症状を出してしまう場合があります。
症状の有無
症状として一般的に認められるのは、腹痛や食欲低下、活動性の低下や嘔吐・下痢などが認められます。
症状は消化管の運動機能障害や消化管壁損傷の程度に依存します。
吐かせる処置
通常、ひも状異物は催吐処置の適応とはなりませんが、無症状であり、かつ短いひもであることがわかっていたり、食べてからすぐの場合には催吐処置を試すことがあります。
内視鏡での摘出
ひも状異物によって症状が出ている場合には、内視鏡での摘出は適応外となります。
ただし、催吐処置と同様に、無症状であり、食べてからすぐである場合には内視鏡下で摘出を試みることがあります。
ウンチで出る?
特に引っかかることもなく、便から出ることもあります。短く、引っ掛かる構造物のないただに細長いひもの場合にはそのまま出てくる可能性も十分にあり得ます。
ただし、前述のように細く長い場合、どこかに引っ掛かることによって症状を出してしまう危険性もある点に注意が必要です。
そのため、【緊急手術を行う可能性を理解しつつ、無治療で経過を観察する】という選択肢を選ぶご家族様もいらっしゃいます。
紐を食べたからと言って、必ず症状を出すわけではありませんので、状況によっては間違った対応ではありません。
(※必ず主治医に判断を仰いでください)
手術による摘出
ひも状異物を飲んでしまい、症状が出ている場合の治療は開腹手術による摘出の選択肢のみとなります。
通常は舌、胃の幽門、噴門、小腸、回盲部のどこかに異物が引っ掛かっているため、そこから数か所腸管を切除してひも状異物を摘出します。
また、摘出後に消化管の損傷の程度を注意深く行う必要があります。消化管壁に穴が開いてしまっている場合には術後に細菌性腹膜炎が生じてしまうためです。
まとめ
ひも状異物を飲み込んでしまった場合には、その紐の長さや太さ、ひも以外に異物を飲み込んでいないかどうかということが重要なポイントとなります。
猫がひもを食べてしまった場合には、主治医と相談してその仔に合った治療を実施してあげましょう。
著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)院長
獣医師、医学博士
日本動物病院協会(JAHA)獣医内科認定医・獣医外科認定医・獣医総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。
当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。