
目次
~発情・低体温を防ぎ、冬を安全に過ごすために~
急に寒くなったこの時期、
鳥(特に小型のインコ・フィンチ)の体調不良が増えています。
鳥は人間より体温が高く(40~42℃前後)、
それを維持するために 多くのエネルギーを必要とします。
気温が下がると、
食べても食べても体温維持に使われてしまい、栄養が追いつかないことがあります。
その結果、低体温・感染症・体重低下・急変につながります。
冬の健康管理で最も大切なのは、
**“正しい方法で温度を維持すること”**です。
ここでは 鳥に特化した寒さ対策をまとめています。
🐦 鳥に「寒さ」が危険な理由
鳥は哺乳類と違い、
体温維持のための脂肪貯蔵が少ない生き物です。
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飛翔能力を保つため、余分な脂肪がつきにくい
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高い体温で代謝速度が速い
-
食べた栄養がすぐに使われる
このため、
室温が下がる=体温維持のためのエネルギーが一気に増える
という状態になります。
食べても追いつかない → 低栄養(飢餓)
低体温 → 免疫低下
免疫低下 → 感染症
この流れで 急性の体調不良が起きやすいのです。
特に 雛・高齢・小型種は、
身体が小さい分、温度変化の影響が大きいです。
❗冬に増える症状・危険サイン
以下のサインがあれば、寒さが原因の可能性があります:
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羽を膨らませてずっと止まっている
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食欲が落ちている
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鳴き声が小さい、鳴かない
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呼吸が浅く速い
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足が冷たい
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体重が急に減った
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糞の回数が少ない
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眠そうにしている
鳥は本能的に “弱さを隠す”動物です。
「少し静かになった」は危険信号と考えてください。
🌡️ “寒さ対策”の正解は「ヒーターをつける」ではない
よくある誤解があります:
ヒーターを付ける → 保温できた → OK
実際は違います。
温めることは 手段であって、目的ではありません。
目的は:
その鳥の種類・状態に合わせて“適切な温度を維持すること”
です。
そのために必要なのは:
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温度計で現状を把握
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サーモスタットで温度を一定化
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ヒーターは「温度を作る」道具
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覆いで「熱を逃がさない」
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暖かすぎない(上限管理)
つまり:
ヒーター=道具
温度管理=考え方
です。
🔥 夜間に“光の出るヒーター”は危険です(重要)
最も多い誤った保温方法は:
赤い光のヒーター、赤外線ライトを夜間に使う
これは生理学的に危険です。
理由:
【1】光は「昼」を意味する
鳥にとって 光=昼/暗闇=夜です。
夜間に光があると、
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メラトニンが出ない
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睡眠が浅くなる
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体温が下がりにくい(疲労)
-
ホルモンバランスが乱れる
になります。
【2】発情・産卵が促進される
夜間の光は:
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性腺刺激
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発情の促進
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無理な産卵
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栄養不足
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低カルシウム
につながります。
「保温」のつもりが「繁殖刺激」になるのです。
【3】夜に休めない=免疫が落ちる
睡眠中も光があると、
回復ができず、免疫が低下します。
結果として 感染症に弱くなる可能性があります。
✔ 正しい保温器具は「光が出ないヒーター」
鳥に適したヒーターは:
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光が出ない遠赤外線タイプ
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保温ボード(ケージ外側から)
-
エアコン併用+部分保温
です。
「暗いまま体温を保てる」方法が正解です。
🧭 “適温”の考え方(数字ではなく考え方)
よくある質問:
「〇℃が正解ですか?」
実は、数字を一つに決めると誤解が生まれます。
正しく言うなら:
種類ごとの“適温帯”の中で安定させること
です。
代表的な目安
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セキセイインコ:20~28℃
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コザクラインコ:22~28℃
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オカメインコ:22~28℃
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文鳥:20~28℃
※幼鳥、病気、痩せている場合は より高めが必要です
(※具体例は「状況別対策」で説明)
重要なのは “昼と夜が極端に変わらない”ことです。
昼22℃→夜16℃
という上下が鳥に負担をかけます。
🏠 保温方法(実践)
基本セット
この3つは鳥の冬の“基本装備”です:
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ケージに温度計(できれば2か所)
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サーモスタット(自動で温度維持)
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光の出ないヒーター
そして、
**熱を逃がさないための「覆い」**が必要です。
✔ 覆い方の注意
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全面布掛け→火災リスク
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熱の出口がなくなる→過熱
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直接触れない素材(難燃)
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換気スペース確保
おすすめは:
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保温カバー(専用品)
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隙間を作って空気の流れを残す
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夜間だけ覆う
火事防止は最優先です。
🌙 夜間の温度管理
夜間に:
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エアコンOFF
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窓際
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隙間風
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ケージの高さ(床に近い)
などがあると、
一気に冷え込みます。
冬は 「夜間の温度管理」こそ重要です。
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ケージの位置を変える(床から離す)
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窓際は避ける
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エアコンとの併用
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ケージの周囲を覆う
などの対応が有効です。
🐥 【状況別】おすすめ対策
① 雛・幼鳥
最も寒さに弱い時期です。
温度は 25~30℃前後の範囲で安定させます。
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体温維持に多くのエネルギー
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免疫が未熟
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食べる量が少ない
→ “少し寒い”が命に関わります。
② 高齢・病中・痩せ気味
代謝が低下しているため、成人より高めに設定します。
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24~28℃が基本目安
食欲や動きを見ながら微調整します。
③ 健康な成鳥
20~26℃を安定させれば安全です。
重要なのは **“急激な変化を避ける”**ことです。
昼24℃→夜18℃
この“差”が負担になります。
🚫 やってほしくない保温方法
以下は理由を理解すれば危険性が分かります:
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赤ランプ・光るヒーター(発情刺激・睡眠障害)
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布をかけて密閉(過熱・酸欠・火災)
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自己流で温度設定(温度計なし)
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夜は寒いから餌を増やす(代謝追いつかず悪化)
特に **「赤い光なら暗い」**という誤解が多いです。
鳥には **赤も“光=昼”**です。
🩺 こんな時はすぐ受診を
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眠そう・動かない
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羽を膨らませて長時間静止
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食べない
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違う鳴き方
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呼吸が浅い
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足が冷たい
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体重が減った
冬は進行が早い場合があります。
「様子を見る」の判断は危険です。
📝まとめ
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鳥は高い体温で生きている
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寒さは体温維持に必要な栄養を奪う
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低体温→免疫低下→病気
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ヒーター=手段
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温度管理=目的
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夜間に光のある保温は有害
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温度計・サーモ・覆いが“セット”
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種別・年齢で適温は違う
著者プロフィール

白井顕治(しらい けんじ)院長
獣医師、医学博士
日本動物病院協会(JAHA)獣医内科認定医・獣医外科認定医・獣医総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。
当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。
