
🔹 不正咬合とは
ウサギの歯は一生伸び続ける「常生歯(じょうせいし)」です。
自然界では草や木の皮を長時間かじることで歯がすり減りますが、
室内飼育では食生活や噛む回数の違いにより、歯が正常に削れず、伸びすぎてしまうことがあります。
このように、歯の噛み合わせがずれてしまう状態を「不正咬合(ふせいこうごう)」と呼びます。
伸びた歯が頬や舌、歯ぐきを傷つけると、
食欲不振・よだれ・涙・口臭・顎下の腫れなど、さまざまな症状を引き起こします。
🔹 予防法
ウサギの不正咬合は、日常の飼育環境と食事内容である程度予防が可能です。
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牧草中心の食事
→ 1日を通して常にチモシーなどの繊維質をかじれるようにしましょう。 -
ペレットの与えすぎに注意
→ やわらかいペレットばかりだと歯がすり減りにくくなります。 -
硬いものを噛む習慣
→ 木製のおもちゃや乾燥野菜なども有効です。 -
定期的な口腔チェック
→ 成長期や換毛期にずれやすく、早期発見が重要です。
特に生後6か月〜1歳頃に永久歯へ生え変わる時期は、
不正咬合が発生しやすいタイミングです。
🔹 検査法
当院では、ウサギの口腔内を専用のライトと開口器を使って丁寧に確認します。
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外からの視診で切歯(前歯)の伸びやズレを確認
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口腔内検査で臼歯(奥歯)のトゲ状突出や頬の傷をチェック
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レントゲン検査で根尖(歯の根)の伸びや顎骨変形の有無を評価
ウサギは口を大きく開けられないため、軽度の不正咬合でも見逃されやすい点に注意が必要です。

🔹 治療法
◾ 切歯(前歯)の不正咬合
伸びすぎた切歯は、専用のダイヤモンドカッターを使って短時間で安全に削合します。
爪切りやニッパーなどで切ると、歯にヒビが入り感染や破折を起こすことがあるため、必ず医療用機器を使用します。
◾ 臼歯(奥歯)の不正咬合
臼歯は口の奥にあるため、状態によって対応が異なります。
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軽度の場合:
→ 当院では無麻酔で臼歯の一部を削ることも可能です。
性格が穏やかで短時間で処置できるウサギに限られます。 -
中〜重度の場合:
→ 麻酔下で安全にトリミングを行い、尖った歯や噛み合わせを整えます。
同時に口腔内の炎症や舌の傷の有無も確認します。
処置後は、再発防止のために食事内容の見直しと定期的なチェックが重要です。
🔹 再発とメンテナンス
一度不正咬合が起こったウサギは、歯根の角度が変化していることが多く、
完全に「治る」よりも、定期的に「管理していく」病気と考えます。
一般的には、1〜3か月に一度の定期処置で快適な生活を維持できます。
早期発見と継続ケアで、食欲や元気を保つことができます。
🔹 まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 病名 | 不正咬合(歯の噛み合わせ異常) |
| 主な症状 | 食欲不振、よだれ、涙、顎の腫れ |
| 検査 | 口腔内視診、レントゲン |
| 治療 | 切歯・臼歯の削合(無麻酔または麻酔下) |
| 再発防止 | 牧草中心の食事・定期チェック |
📍当院の特徴
当院では、ウサギにストレスをかけない診療を重視しています。
性格や状態に合わせて、無麻酔・軽麻酔・全身麻酔を適切に使い分け、
安全で確実な歯科処置を行っています。
ウサギの食欲低下やよだれ、顔を傾けるなどのサインがあれば、
早めの受診をおすすめします。
著者プロフィール

白井顕治(しらい けんじ)院長
獣医師、医学博士
日本動物病院協会(JAHA)獣医内科認定医・獣医外科認定医・獣医総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。