こんにちは、獣医師の白井顕治です。
この記事では、犬の体表に形成された肥満細胞腫に関する情報を記載していきます。
肥満細胞腫は、肥満細胞という主にヒスタミンなどを分泌する免疫に関連する細胞が腫瘍化したもので、悪性腫瘍に分類されます。
肥満細胞という名前は、顕微鏡でこの細胞を見た際に多くの顆粒を持ち「太っている」ことから肥満細胞という名前が付けられているため、ペットが肥満なために発生する腫瘍ではありません。
一般的な悪性腫瘍の発生と同様、中年齢から高齢にかけての発生が多く、犬種ではパグには多発する傾向がある事が知られています。
体表に形成する場合と、内臓に形成する場合があり、犬では体表型が多く、ネコでは体表型も内蔵型も同程度発生します。
外見、かたさ、発生する部位、表面の被毛など、様々な外見を呈するため、体表に形成されたすべての腫瘍の鑑別疾患として肥満細胞腫をあげる必要があります。
ーーーーーーー
肥満細胞腫の外貌の例
ーーーーーーー
肥満細胞腫であるという診断は針吸引生検を行うことにより比較的容易に行うことができます。肥満細胞腫のもっとも重要な予後因子は、「術前に肥満細胞腫であるということが分かっているかどうか」とも言われていますので、手術の前に診断することが重要です。
ーーーーー
針吸引生検は腫瘤に針を刺して、中の細胞を採取して検査をする方法で、得られた細胞を検査センターに送り、診断をしてもらいます。7~10日ほどで検査結果がでます。
ーーーーー
また、肥満細胞腫はリンパ管を介して転移することが多く、手術を行う際には領域リンパ節の検査も同時に行う必要があります。
また、肥満細胞腫のうち30%程度にc-kit遺伝子の変異が認められることが知られています。
この遺伝子に変異が起きていると、より悪性度が高く、術後の再発率や転移率が非変位肥満細胞腫と比較して上昇します。
悪性腫瘍に対する治療方法としては大きく分けて外科療法・化学療法(抗がん剤)・放射線療法の3つがあげられますが、肥満細胞腫に対して第一となる治療は外科的摘出です。
周辺部マージンについては様々な情報が掲載されていますが、当院においては水平方向に対して腫瘍径と同半径分のマージン、腫瘍が直径3センチ以上の時には3センチマージンとなるように摘出を行っております。
ー当院における治療実績の例ーーーー
ミニチュアダックスフントの右大腿部に形成されたグレードⅡ肥満細胞腫(c-kit変異あり)
柴犬の体表に形成された肥満細胞腫の診断および手術(c-kit変異なし)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
もっとも摘出不良となりやすい底部マージンに関しては1筋膜を目安に摘出を行っています。
肥満細胞腫は摘出後に組織グレードが病理学的診断により1~3に分類されます。
摘出状態および組織グレード、遺伝子変異の有無を基に術後に抗がん剤や分子標的療法を行うか経過観察を行うかなどをご家族と相談して判断していきます。