目次
初めに
こんにちは、獣医師の白井顕治です。
今日は尿石用フード(※)を処方するケースについて記事にさせていただきます。
(※)pHコントロール、c/d、u/dなど、尿路結石の形成を予防したり、溶解を促進させることが期待できる療法食全般を指して使用しております。本記事内ではこれらの中で特定の食事を指したいわけではありませんので、尿石用フードとします。
外来で最も誤用多い療法食フードが、この尿石用フードです。
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おしっこのできかた
まずはおしっこのでき方についてご説明します。
おしっこは、
- 血液を材料に腎臓から作られて
- 尿管を通って膀胱へ運ばれ
- 膀胱で一定以上貯蔵されると
- 尿道を通って体外へと排泄されます
採り方による尿検査に使用するときの尿の違い
次に尿検査を行うときの尿についてですがいくつか種類があり
①自然排尿
通常行われる、ペットが排尿を行ったおしっこです。最も採取するのに負担がかかりませんが、異常値が出てしまうことがあります。また、尿道や膣からの細菌の混入が起きてしまいます。
②カテーテル採尿
尿道からカテーテルを挿入して、膀胱から尿を採取します。病院にもよりますが、当院においては③の穿刺排尿が行うことができない膀胱や前立腺の悪性腫瘍を疑っているときに行うことがあります。
③穿刺排尿
お腹に針を刺して、膀胱から直接尿を採取します。針を刺す場所をしっかりと選べば、痛みは大きくなく、無麻酔で行うことができます。暴れてしまう子も少なく、また、最も正確に診断ができる検査材料です。
自然排尿のおしっこで異常が認められた場合や、自宅でどうしてもおしっこが取れない、何らかの理由で排尿ができない、腎臓の細菌感染を疑っているといった時に行うことがあります。
※自宅で尿が取れない場合に、お腹を押して無理に排尿させる手技を圧迫排尿といいますが、膀胱破裂の危険性があったり、腎臓への細菌感染を助長させることが明らかとなっているため、現在は行うことは原則禁止とされています。
実際の尿検査ー結晶に対する評価ー
多くの場合、最初に検査を行うのは①の自然排尿のおしっこだと思います。問題はこのおしっこの中の結晶の評価です。
尿路に結石ができてしまう、腎結石・尿管結石・膀胱結石・尿道結石は人間にもある非常になじみ深い、また、多くの飼い主様が尿路に医師ができる可能性がある事を知っている病気でもあります。
自宅でペットシーツの上におしっこをして、あとから見たらペットシーツの上にキラキラ結晶があった。
病院で尿を検査したら、結晶があると言われた。
(顕微鏡で結晶を見せてもらった。)
これらのことは、尿石用のフードを食べる理由にはなりません
自然排尿のおしっこというのは、体外へ出て、温度が下がって、少し蒸発したりして濃度が濃くなって、非常に結晶が析出しやすい状況にあります。
猫の報告ですが、自然排尿のおしっこを調べた場合、健康な猫の70%以上にストルバイト結晶が確認されます。
なので、自然排尿中にストルバイト結晶がある事は、正常所見範囲内とみなされます。
もちろん、前述のとおり温度が下がって濃度が濃くなったとしても、ストルバイトのような結晶になる成分が尿中に含まれているということは、体内にも結晶や結石がある可能性はありますが、その可能性だけであてどもなくずっと尿石用のフードを食べるというのは正しいとは言えません。
結晶を適正に評価する方法とは?
それでは、ペットシーツや新聞紙にきらきらとした結晶が認められた際にはどう判断すればいいのか、説明していきます。
結晶が認められた場合には、尿のpHや沈渣を臨床症状とともに評価をします。
次いで、「膀胱や腎臓に結石があるかも?」と疑われた場合には超音波検査を行います。
(レントゲン検査では写ってこない結石の種類があるため、また、超音波検査自体ペットに非常に負担の少ない検査ですので、超音波を選択すべきでしょう。)
そして画像診断として体内に結石を認めた時に初めて、「尿石用のフードが必要かも」という流れになっていきます。
(ついに登場!)
誤用してしまうデメリット
療法食は通常の市販食と比較して高額なことが多いため、必要性を確認して食べさせてあげることは飼い主様にとっても大切なことです。
また、尿石系フードに限って言えば通常の食事の栄養バランスとは著しくかけ離れた食事となっていますので、食べることにより心臓に負担がかかりやすくなったり、肥満傾向になったりしてしまうといった異常が出てくることがあります。
また、一度若いころに尿石があると言われたため、そこからずっと尿石用フードを食べているというペットにも比較的よく遭遇します。
そのような場合にも定期検診を行って尿石用フードが必要なくなった段階で通常食もしくはそれに近いフードに戻してあげることが大切です。
心当たりのある方は、ご相談いただければと思います。
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著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)副院長
獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。
当院において泌尿器科を担当しており、この記事に紹介している手術はすべて私が担当しています。
当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。