佐倉しらい動物病院ブログ

【獣医師監修】猫のおしっこが出ない!観察ポイントや応急処置の紹介

こんにちは、獣医師の白井顕治です。2022年2月22日。この猫の日に、猫ちゃんの記事を投稿できることを喜ばしく思います。

この記事では、生活していて、猫のおしっこが突然でなくなってしまった時にまつわる情報を記載していきます。

猫のおしっこが出ない時は病院へ。特発性膀胱炎の原因と治療方法

トイレに何回も通う

生活をしていて、猫が何度もトイレに通うという症状を出すことがあります。「何度も」というところがあいまいですが、通常、一日の排尿回数は多くても3-5回程度です。それ以上に何度もトイレに通う場合には、回数が多いという判断をしてよいでしょう。

トイレに何回も通うという仕草以外には、陰部や下腹部をずっとグルーミングしていたり、トイレの近くでうずくまったりする症状を出す猫もいます。また、不快感から大きな声で鳴いたり、猫砂を飛び散らかしたりする仔もいたりします。

何か不快感を感じているそぶりを見せる仔が多いですが、不快感の表し方には個体差があります。

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消化器疾患?泌尿器疾患?

「猫がトイレに通う回数が多い」ということが明らかになった場合、次は理由を考えていきます。まずは、トイレに自発的に通っていますので、排泄行動に関連しているはずです。猫にとって、トイレは理由なく何度も通う場所ではないため、行くからには理由があります。つまりは、便が出したいのか、尿が出したいのか、どっちなのかということです。便が出したい場合には、便秘や大腸炎の際にトイレに通う頻度が多くなります。大腸炎の時には通常よりも水分の多い便が何度もでる「しぶり」と呼ばれる症状が現れます。便秘の時は、何も出なかったり、下痢が出たり、力んだ後に嘔吐をしたりする症状が認められます。便秘の時は、腸粘膜に炎症が起き、隙間から下痢が排泄されることもしばしばあります。また、とても固い少量の便が排泄されていることもあります。このような症状が認められたり、過去に便秘という診断を下されたことのある猫ちゃんであれば、消化器疾患も考えなくてはなりません。

便は通常通り出ている場合には、泌尿器疾患が原因と考えてよいでしょう。

便秘の症例

便秘であり、非常に硬い便が直腸から排出された。

また、重度の便秘では、結腸内の便が膀胱基部を圧迫し、尿も出なくなってしまうこともあり、便と尿、どちらが出ていなくて困っているのか判断しづらい状況の症例も存在します。

トイレを確認し、出ているかどうかしっかりチェックをしましょう。

また、便秘であったり膀胱炎であったりして不快感を感じていると、トイレ以外で排泄を行うような異常排泄を呈する場合もあります。洗濯物の中や、玄関の靴の中に用が足されている、重ねてあった座布団や布団の上に用が足されているといったケースもありますので、トイレ以外の場所もにおいを頼りに観察しましょう。

膀胱炎vs尿路閉塞

「猫がトイレに通う回数が多い」、「どうやら泌尿器疾患っぽい」となった次の段階は、膀胱炎なのか尿路閉塞なのか?という問題が立ちはだかります。

尿路閉塞と膀胱炎との区別ができるか?

実際に、尿路閉塞と膀胱炎の鑑別は難しいです。なぜなら、二つは独立した関係のない病気ではなく、一連の病態で膀胱炎から尿路閉塞に進行することがあるため、朝確認した時には膀胱炎だったが、昼には尿路閉塞に進行していることもあるからです。ただ、極端に初期の膀胱炎であったり、進行した尿路閉塞の場合には特徴的な症状を出すこともあります。

観察ポイント

膀胱炎と尿路閉塞を鑑別する観察ポイントですが、尿路閉塞を疑わせる以下のような症状が出ている場合、こんなページを読んでいる暇があったらすぐに動物病院に駆け込んでください。

尿の色

尿の色は正常~やや赤みを帯びたくらいの尿が、膀胱炎であっても尿路閉塞であっても出ることがありますので、尿の色での診断はあまり行うことができませんが、非常に赤色が強い場合や、茶褐色になっている場合(出血がとても多い、出血したものが長く膀胱内にとどまっていた)というのは、尿路閉塞を疑わせる一つの所見となります。

尿の出方

膀胱炎では、力んだ際にわずかながら尿が出ていることが多いです。ご家族の方が、「出ていない」といっていても、数滴ずつ排泄され、結局膀胱内に蓄尿はないということも多々あります。尿路閉塞ではほぼ排尿がありません。進行した尿路閉塞では、膀胱が過拡張し、パンパンになった分、わずかに漏れ出るように「ポタリ…ポタリ…」と排泄されるため、陰部周囲の被毛が尿で濡れていることがあります。

ただ、これらの観察ポイントは、少数ですが、膀胱炎でも尿路閉塞でも認められるケースはあるため、あくまで参考程度のものです。

猫自身の症状

ここはとても大切です。

膀胱炎は下腹部が痛く、いつでも残尿感があるのは嫌な症状ではありますが、尿は出ているという点で命には直結しない状態です。そのため、トイレに何度も通ったりはするが、食事もとるし、昼寝もする。普段通っぽく生活しているけど、トイレによく通う。そんなイメージです。

それに対して尿路閉塞は非常にまずいです。少し考えればわかります。自分がおしっこをしたくてトイレに行こうとしたとき、「映画見てからでもいい?」って言われたら、大変な話です。臨死体験です。

実際の症例では、食欲はなくなり、嘔吐をし、ぐったりして、普段の様子ではなくなります。

典型的なひどい閉塞の症例では「元気がなく、食欲もなく、水は少し飲む、トイレにすら通う元気がなくなっているか、トイレの中でうずくまっている。陰部が尿で濡れている」などです。このような症状の場合、いつ死んでもおかしくないほどの重症と考えてよいと思います。

尿がパンパンにたまっているのに元気ということはまずありえません。

ただし、「元気」という定義は非常に主観的であるため、その点は要注意です。

初めからおっとりした性格の猫ちゃんが元気がなくなると、本当に沈鬱状態になってしまい動かなくなってしまいますが、元の性格がかなり神経質で動物病院にくると攻撃的な性格になってしまうような猫ちゃんでは、非常に重症であるのにもかかわらず、動きが認められることもあります。

あくまで指標として受け止めてください。

おしっこが出ない!自宅でできる応急処置は?

自宅でネコの様子を観察していて、「これは尿が出てないし、しかも元気が無いな」と感じた場合の自宅で行うことのできる応急処置ですが、ありません。

すぐに、今検索しているスマホで動物病院に連絡しましょう。いつも通っている動物病院が休みだったら、ほかの病院でもいいです。緊急症例です。

仮に、日々、猫の尿路閉塞の治療をしている私(院長)が飼育している猫が自宅で尿が出なくなっても、その日の予定をキャンセルして処置を行うために動物病院(職場)に連れていきます。繰り返しですが、自宅でできる処置はありません。

病院で検査した結果、「尿は実は出ていました、おしっこは膀胱内にたまっていないです」ということもあります。自宅のどこかで、飼い主さんが気付かない場所でしていたということもあります。

また、病院へ向かう途中に緊張して腹圧が上がって、ケージの中がおしっこまみれになっていることもあります。ひとまず。膀胱から尿を出さなくてはいけません。

「実は尿が出ていた or 病院に行くまでに出たね」ということなら良いんです。文字通り結果オーライです。

尿が出ていないからといって、腹部を圧迫して排尿させようとすることは絶対にやってはいけません。炎症を起こし、拡張して弱っている膀胱はその程度の圧力であっても膀胱が破裂するリスクがあります。「膀胱マッサージ」という言葉で検索している方もいらっしゃるようですが、そんな療法は無いです。

「うまくやれば破裂せずに出せる」と勘違いしている人は、これまで偶然破裂しなかっただけです。繰り返し書きますが、尿が出ていないで、膀胱内に過剰に尿が貯留している状態で、下腹部を強く圧迫したり、強くな出るような腹圧を上げたり膀胱を刺激するような行為は膀胱破裂を引き起こすリスクがあるため、避けましょう。

自分がおしっこがパンパンのときに、下腹部を強くなでられたら痛くてたまりません。尿が出ないことも緊急疾患ですが、膀胱破裂はより緊急性が高くなります。

圧迫して、無事に排尿ができることもありますが、それは偶然破裂しなかっただけで、運が良かっただけです。危ないのでやってはいけないことです。

また、圧迫排尿は膀胱破裂のリスク以外にも、膀胱内の尿が腎臓に逆流してしまい腎盂腎炎になるリスクも生じさせますので、通常は実施しない排尿法となります。

何日間おしっこが出なくても大丈夫か?

結論から言いますと、尿は毎日出る排泄物ですし、毎日出なくてはいけないものです。

通常、何日間も尿が出ていない場合には命の危険がある状態といえ、ぐったりしていることが考えられます。尿が出ていないにも関わらず、元気や活動性がある場合には、トイレ以外で排尿している場合が考えられます。尿が何日間も出ていないかを確かめるために、玄関や押し入れの奥、台所など、こっそりおしっこをしそうな場所をチェックしてみましょう。

ねこちゃんの尿が我慢できる時間についてよく質問を受けます。そして必ず飼い主様に聞き返します。「お母さん(お父さん)は、どのくらい我慢できますか?」。

私は、2分とかも我慢したくないです。(したいな)と思ったら、基本すぐにトイレに行きたいです。

「おしっこに行きたいな」と思ってから映画1本見れますでしょうか?無理ですよね?

犬や猫は我慢できるとかそういう特殊能力は無いです。

「大丈夫」というのは、何の問題もなく耐えることができる時間ということです。

その点でいうと、30分くらいは「大丈夫」といっていいと思います。私もそのくらいなら何とか頑張れます。

それ以上の時間は、「ギリ耐えている」だけです。どのくらい耐えることができるのは、年齢や基礎体力、まったく尿が出ていないのか、少しは出ているのか、など、様々な要因によって左右します。

「どのくらいの時間までは死なないで耐えることができるか?」という情報は、ありませんので、早く動物病院に行きましょう。

すぐに病院へ!どんな処置が待っている?

ということで動物病院に来たとします。もちろん担当の獣医師が前述の鑑別を行う必要がありますが、今回は尿路閉塞だったとして、尿路閉塞の猫ちゃんが受ける検査や治療を紹介していきます。

尿が閉塞している時点で緊急性が高い状態です。応急処置は病院で実施する行為以外は難しいので、家でどうにかしようとせず、すぐに動物病院にかかることが最も重要です。

また、尿がだらだらと漏れ出ている状態も、危険です。尿が一切出ないよりはまだ良いのですが、基本的には膀胱がパンパンになりすぎて、尿道括約筋が縮む力よりも膀胱内の圧力が高くなってしまったため、ぽたぽたとオーバーフローしている状況の可能性が考えられます。

ぽたぽたと出る場合には、陰部周辺の被毛も尿で濡れていることが多いため、その場合にも動物病院へできるだけ早くいって、状況を診断してもらい対処してもらいましょう。

膀胱炎の場合には、エコーで診断され、膀胱炎の治療が施されるでしょう。ただ、注意点がありますので、その点については後述します。

行われる可能性のある検査

まず前提として、病院によって行われる検査が異なります。その点は留意して読んでください。

行われる可能性があるものを挙げると

  • 触診
  • レントゲン検査
  • エコー検査
  • 尿検査

などです。

まず触診ですが、これは膀胱が拡張しているかを触ります。レントゲン検査では、膀胱がどれくらい拡張しているのか、閉塞しているのが結石だとしたら、膀胱や尿道にどの程度結石がつまっているのかなどを知ることができます。

腹部エコーでは、膀胱が過拡張している様子とともに、膀胱粘膜や蓄尿している尿の様子、結石の大きさや、腎臓にどの程度圧力がかかってしまっているかを観察することができます。

当院でよく行う流れとして、受付で行う問診から尿路閉塞が疑われる場合、体重測定とご家族に対する簡単な尿路閉塞の危険性に対するインフォームを行い、およそ1分後にはエコーを当てています。私の考えなので、異なる獣医師もいるかもしれませんが、尿路閉塞している時点で緊急です。触診してる暇があるなら、まずはエコーを当てて尿を抜いてあげることをわずかでも早く行う必要があるためです。

これは個人的な経験が元になっている行動ですが、まだ若かりし頃、「検査や処置をするには、まずはしっかりとインフォームドコンセントを実施してからだな」と考え(悪くないですが)、説明中にネコちゃんが死亡してしまったことがありました。私がすぐに尿を抜いたら死亡しなかったかどうかはわかりませんが、インフォームドコンセントを行う前にまずは命を助ける行為を実施して、それからゆっくりと話せばいいと今は考えています。

尿路造影も当院においては行いません。

およその閉塞している箇所と、閉塞原因はエコーと尿カテーテル設置によって把握できるということと、通常の結石や栓子による閉塞であったり、特発性膀胱炎からの尿路閉塞の場合には、造影をしたことによってその後に行う処置に違いが出ませんので、メリットとデメリットを勘案し実施していません。

行う可能性がある状況として、交通事故や他院において尿道カテーテルによって尿道を損傷してしまった場合には、損傷個所の確認と液体の流出状況を把握するために尿路造影を実施することがあります。

(「他院」と記載したのは、「当院においては100%尿カテーテルによって尿道損傷を起こさない」ということではありません。尿路閉塞に対して尿カテーテル設置を行う場合には、尿道を損傷してしまう可能性が、高くはありませんが常に伴います。当院内で発生してしまったことであれば、尿道を損傷してしまったという事象や、尿道損傷個所が良くも悪くもわかっているため、行う必要はありません。他院で行われた場合には、そもそも尿道損傷が本当に起こっているのか?起こっているとしたならどこなのか?ということを調べるために実施するという意味で記載しています。)

【症例:雑種猫の尿道損傷に対する会陰尿道造瘻術】

行われる可能性のある処置

尿路閉塞と診断された後に行われる処置です。

膀胱穿刺をして排尿する

尿道にカテーテルを入れるのは強い痛みを伴います。そのため、まずは膀胱内の尿をカラにして、生命の猶予を得るために経腹壁から膀胱穿刺を行い、膀胱内の尿をほぼすべて抜き取ります。どのくらいの尿が抜けるのかは、猫の大きさ、膀胱の拡張度合いによるため、基準はありません。閉塞しているが、40ml以下の時もあれば、100mlを超えたこともあります。

本人の意識がもうろうとしている非常に重症な症例であればそのまま尿カテーテルを設置することもできますが、閉塞したてで、意識がはっきりとしている猫ちゃんの場合には鎮静を行ってカテーテルを設置することがほとんどです。これは病院によっても異なるようですが、私自身、自分が手術を受けるときに尿道カテーテルを入れられ、とても痛かったことを今でも覚えています。よく、「鎮静をかけるのはかわいそう」という方もいらっしゃいますが、あんな痛みを記憶に残す方がかわいそうと、私は考えています。ほぼ無麻酔・無鎮静でネコに尿カテーテルを設置している先生もいるということは聞いたことがありますが、これは診療方針の違いということで、ご家族の方がより考えに合う診療方針の動物病院かを選択していただくポイントかなと思います。

尿カテーテルの設置

尿が膀胱内からなくなり、膀胱の圧力が下がると、直後から非常に強い利尿が開始されます。拡張して痛んだ膀胱や、尿道を休めるためにも尿道カテーテルを設置して、しばらくの間、腎臓・膀胱・尿道を休める必要があります。

尿カテーテル後に、尿漏れが出るという話を聞いたことがありますが、状況によると考えられます。(当院ではあまり発生したことがないので、推測します。)

尿カテーテルを短時間挿入し、膀胱を洗浄して抜去した場合には、結局、特発性膀胱炎自体が十分に改善しなかったため、膀胱内に尿が貯留して再び漏れ出てしまっている可能性が考えられます。

また、数日間カテーテルを挿入してその後に尿漏れが生じる場合は、「数日間挿入していたが、やはり特発性膀胱炎がコントロールできなかった」もしくは、「カテーテルを挿入していたことによって尿道が炎症を起こしてしまった」などが考えられます。

カテーテルの設置の仕方、カテーテルの種類、太さや硬さ、その間の内科療法によって違いが出てくるのではないかと考えられます。一般的には、細く柔らかいものの方が尿道にやさしいですが、カテーテルの閉塞や断裂を起こしてしまうリスクもそれに伴って上がってきますので、症例にあったカテーテルを選択する必要があります。当院では、4種類用意していますが、病院によって異なると思います。

適切にカテーテルを設置した場合には、尿道括約筋へ分布する筋肉や神経を傷つけることはありませんので、尿漏れは起こりません。遭遇したことがある症例として、他院において、通らないのに無理にカテーテルを挿入しようとして、尿道を突き破ってしまった結果、持続的に尿漏れが起きてしまい陰茎が炎症によって腫大してしまったという猫ちゃんにあったことがあります(無事に治っています。大変な状態なのに、人懐っこいかわいい子でした。)

その他、抜去してから数分~長くて1時間程度は、少し漏れてしまう仔がいますが、半日以内には尿漏れは完全に消失します。

入院?通院?

現在、尿路閉塞が発生した場合には、前述のとおり尿カテーテルを設置して泌尿器系を休ませる必要があるため、通常尿カテーテルを設置した状態で入院管理となります。尿カテーテルが装着されている場合、ぽたりぽたりと常に尿が出ていますので、その状態で家に帰ると家の中すべてに猫の尿が垂れてしまうので、大変かと思います。まれに、カテーテルがついた状態で退院させる動物病院や、それを希望されるご家族もいらっしゃいますが、当院では通常尿カテーテルがついている状態での退院はおすすめしていません。

当院においては、尿カテーテルを設置しての入院期間は4-7日程度を目安位にしています。長いように感じられるかもしれませんが、痛んだ膀胱粘膜や尿道が再生するために、そのくらいの日数は最低限必要となります。例えば、場所は違いますが、転んでひざをすりむいてしまったとして、やはり治るのにはそのくらいの日数がかかりますよね?そんなイメージでよいと思います。

再発が多い理由

まず、閉塞解除後のケアとして、単純にその場で解除しただけで帰宅したり、カテーテルを設置している期間が短い場合には再発率が高くなります。そのほか、再発しやすくなる要因として、

  • 猫の尿道が非常に狭い
  • 微細な結石が膀胱内に多数ある
  • すでに閉塞を繰り返し、尿道が炎症・狭搾している

などがあげられます。

また、非常に重要な点として、なぜ尿路閉塞を起こしたかということです。現在最も多い閉塞の原因疾患として、特発性膀胱炎があげられます。

特発性膀胱炎?

原因が不明なので特発性となっていますが、ストレスがかかわっていることがわかっています。人間でいう間質性膀胱炎(指定難病)と類似した病態を示しており、原因となるストレス源を特定できない場合には、完治は難しい病気です。治療目標は完治ではなく、再発頻度を低くすることが目的となるほどです。また、なぜ膀胱炎が尿路閉塞に関係しているのか?という点について、わかりやすい部分を記載していきます。

メスには起こらないのか?

起こらないわけではありません。この特発性膀胱炎はメスにも起こっていますが、メスは尿道が太いため、尿道炎を起こしても尿道が閉塞することが少ないため、尿路閉塞として雌猫が来院することはかなり稀です。雌猫がこの特発性膀胱炎関連の尿路閉塞で来院するとしたら、かなり重度の膀胱炎で、粘膜の壊死脱落が激しい場合であったり、大型の結石が尿道に閉塞しているような症例が来院されたことはこれまでにもあります。ただ、オスが圧倒的に多いです。

・尿道炎に移行する

膀胱粘膜が炎症を起こすことにより、その炎症が尿道に波及していきます。そうすると尿道は痙攣をおこし、狭搾します。力んでも尿は出ませんが、膀胱内に大量に尿が貯留し、狭搾する力を圧力が上回った分だけわずかに排尿されます。

このパターンの場合、鎮静をかけたり、筋肉を弛緩させる処置を行うと尿道内に結石があるわけではないので、カテーテルはスムーズに挿入することができます。

なんとなく、「尿道が閉塞してるなら、何かつまっているものがあるはず!」と考えてしまいますが、何もつまっていなくても、尿が出なくなることはあるということが重要です。

(サイト内リンク)

【コラム:『尿検査で結晶が出てきた⇒尿石用フードを食べる』の間違い】

【症例:猫の膀胱内結石の摘出

・膀胱の収縮能力の低下

炎症が起こることにより、壊死した粘膜が浮遊していたり、膀胱の収縮能力が低下し、膀胱内の尿を すべて排泄することができなくなったりすることによって、膀胱結石の形成が誘発されます。そのような結晶・結石が尿路閉塞を助長させる因子になります。結石であったり、壊死した粘膜や細菌塊で形成された栓子が尿道内に認めることもあります。

再発が多い仔に対する手術とは

前述のとおり、膀胱炎も大変ですが、尿路閉塞はもっと大変です。何度も起こると、そのたびに腎臓に障害を与えるため、寿命にも影響してきてしまいます。そういった尿路閉塞を繰り返してしまう猫ちゃんには、尿道を太くする会陰尿道瘻造瘻術という手術があります。

(会陰形成術と検索される方もいらっしゃいますが、会陰は作るというか、「会陰」という場所に尿道の開口部を開ける手術です)

手術の紹介

会陰尿道造廔術はオス猫に対して行われる手術です。オス猫の尿道は、膀胱から少し行った尿道球腺(人でいう前立腺と似た機能の腺です)のあたりから急激に尿道が狭くなるため、その付近まで尿道を開き、太い部分を出口とする方法です。肛門と陰茎の中間の会陰部に新しく尿道の出口を作成する手術方法です。

この手術には、仕上がりとしていろいろなパターンが存在しますが、当院においては術後、尿道に被毛が入ったり、狭搾することを防ぐため、包皮粘膜を用いた方法で会陰尿道の再建を行っています。

【手術症例(サイト内リンク)】

【症例:雑種猫の会陰尿道造瘻術

【症例:雑種猫の尿路閉塞に対する会陰尿道造瘻術】

【症例:猫の尿路閉塞に対する会陰尿道造瘻術】

手術の適応

「閉塞の再発を繰り返す場合には」と記載しましたが、具体的な回数は専門医の方からもアナウンスされていません。例として、当院では初回に閉塞をした段階で、手術の紹介は行います(初回から手術を勧めているわけではなく、今後再発を繰り返す場合には、このような方法があるという紹介の為です)。その中で、前述のような、再発しやすそうな解剖学的特徴・病状の猫であって、ご家族からの希望があった場合には1回目の閉塞からそのまま手術を行うこともあります。

個人的には、1~2か月以内の短い期間に再発をするような症例は2回目以降からは手術を勧めています。

再発するといっても、短期間ですることもあれば、2-3年後にすることもありますので、一回解除したら数年発生しなかったような症例であれば、その都度尿カテーテル管理を行うということも、考慮していい手法であると考えられます。

また、費用的に考えても、2回、3回と閉塞して入院すると、手術を行った方が費用的に安いといったことも起こりえます。そういう点も、初回入院時によく話し合っておくと、再発した時に焦らずに治療方針を選択することができると思います。

術後、カラーが外れるまで

通常、排尿は術後から自分で行いたいタイミングで排尿することができるようになるため、術後は尿カテーテルは装着しません。患部をグルーミングすることによって尿道が癒着してしまうことがあるため、通常の手術よりも長めにエリザベスカラーの装着を行っています。

また、当院で実施している会陰尿道の手術に関しては、すべて自然に溶ける糸で縫合しているため、抜糸はありません。術後、平均して4-5日で退院としています。

術後2週間

手術によるメリット

術後のメリットとして、尿が閉塞することがなくなるということが上げられます。(それが目的ですからね…)いつ尿が出なくなるか心配するというのは、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えているような状態なので、尿道がつまらないというのはとても良いです。

食事

また、メリットとして食事があげられます。手術を実施していない場合には、特発性膀胱炎に関連して尿路結石などの形成が多く認められるため、それ用の食事をとることが推奨される場合もありますが、この会陰尿道の手術を実施すると、直径5ミリ程度の結石であれば自然に排泄されます。そのため、あえて結石用のご飯を食べなくても、結石が膀胱内で形成されたら、そのまま体外に排泄されるので、あえて結石用のご飯を食べなくても大丈夫になります。

なぜそれがメリットとして挙げられるかといえば、この手術を行っているということは、1回~複数回尿道閉塞を起こし、腎臓に障害を与えているはずです。そのため、腎臓の機能が低下している症例が多いため、食事療法は腎臓病用にしてあげることができるということです。膀胱結石溶解用のフードも泌尿器用の食事ではありますが、腎臓のケアを行うのであれば腎臓病用療法食の方が当然効果が高いため、こちらを選択します。

生活

そうはいっても、膀胱炎の再発は少ないのに越したことはありません。ストレスをかけないように、かけてしまったストレスを上手に発散できるように、個々の症例の性格と合わせて担当の獣医師を相談して生活環境を調整していきましょう。

手術費用と手術のデメリット

メリットとデメリットを比較して、この手術を受けるかどうか決めるべきですが、前述のとおり、尿路閉塞を繰り返すようなネコちゃんでは、メリットが上回ると判断されます。この会陰尿道瘻造瘻術に対するデメリットとして、一つは費用が掛かるということがあります。手術費用は病院によって異なると思いますが、20ー30万円程度になると思います。これは、病院によって異なるということもあると思いますし、その時の猫ちゃんの容態や、猫ちゃん自身の性格によっても入院期間が変わることがありますので、費用が変わる部分については猫ちゃん側の要因もあると思います。かかりつけの動物病院の受付の人に聞いてみるのが一番詳しいと思います。

ただ、手術を行わなかったとしても、鎮静・麻酔をかけて尿カテーテルを設置、点滴や入院し足りしますので、費用が発生しないわけではありません。こういったことを2-3回繰り返していると、費用の話だけで判断しても、手術したほうが安いということは起こりえます。

ここは再発の頻度と、その病院での手術費用を加味して治療方法を決めていくとよいでしょう。

また、費用は関係なく、デメリットがあるかと言われると、私としてはあまり挙げることはないです。「尿路が何度も閉塞する」というのは、すごい大きな病状ですので、それがなくなる手術というのはメリットのほうが大きいと判断しています。「麻酔が、入院が、ストレスが」とおっしゃっる飼い主様もいらっしゃいますが、何度も尿路閉塞を起こすことが最も腎臓に負担をかけ、ひいては命を短くする要因になります。

検索をしていると、比較的よく「再手術」ということが書いてありますが、おそらく組織の取り扱いが雑であったり、皮膚と粘膜の縫合がうまくなかったりすると、尿道が炎症・瘢痕化・再狭窄もしくは完全に閉鎖を起こしてしまうということがあると聞いたことがあります。おそらくはこの手術に慣れていない先生が手術をした場合の話ですので、子のデメリットが発生するような動物病院かどうかをご家族が判断するとよいと思います。

当院では、術後ご家族の判断で早めにカラーを外してしまったときに、猫が患部をなめてしまい癒着してしまったような症例においては、尿カテーテルで尿道を広げる処置(癒着をはがすための)を行ったことはありますが、再び切開、再縫合するような再手術を実施した症例はいません。かなりの症例数の手術を実施していますが、今のところ再手術に至った症例がいませんので、猫の体質や尿道の炎症によるというよりは、獣医師の技術によって再手術が必要になる可能性が出るかどうかというのが決まるのではないかなと考えています。

最後に

尿路閉塞は、若い猫が、唐突になることが多い病気です。「病気はもうちょっと年取ってからでしょ?」っていうような1~5歳くらいの年齢で多発するため、「ちょっとトイレに行く回数多いけど、若いから、まだ病院に行かなくていいかな」と思わず、猫ちゃんがトイレに何度も通う姿を確認したら、動物病院に相談してください。

普通に尿と便が出るってすごい…!

猫の排尿に異常が認められた場合には、お気軽にご相談ください。

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【当院の泌尿器科の診療実績一覧】

著者プロフィール

白井顕治(しらい けんじ)副院長

獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医

千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。

当院において泌尿器科を担当しており、この記事に紹介している手術はすべて私が担当しています。

当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。

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