子宮や膣、乳腺などは女性ホルモン系統の上位である卵巣の状態によって様々な病変を呈することが知られている。逆説的に言えば、例えば乳腺腫瘍や子宮内膜症などの異常が認められる場合には、卵巣にも何らかの異常を認めることが多い。避妊手術を行っていないメスのワンちゃんで、中年齢以上になってからの体調不良には常に卵巣や子宮の異常の存在を疑う必要がある。
避妊手術を若齢期に行うワンちゃんが多くなってきた昨今、初歩的な点であるものの、経験の浅い獣医師である場合には避妊手術済みであるかどうかという確認を怠ってしまうケースがあります。そのような事を防止するためにも、手術を行っていない場合には、ご家族の方からその旨をしっかりと伝えていくことが正しい診断に重要であるといえます。
また、今回のような高齢のペットにおける手術および麻酔は、同様の手術を行うとしても、やはり各臓器の予備能力が加齢とともに低下しているため、リスクが上がることが報告されています。
手術の重要度はケースバイケースです。一つ要素が変われば、手術を行う・行わないという判断が覆ってしまう事はよくあります。主治医とよく相談した結果、治療方針を決定していきましょう。
実績詳細
チワワの卵巣乳頭状腺腫・子宮水腫・膣の平滑筋肉腫の摘出手術
種類 | チワワ |
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年齢 | 15歳 |
診療科目 | 軟部外科・整形外科 腫瘍科 |
症状 | おしっこが出ない |
症状の概要
検査結果
症例は排尿不全と、膀胱付近に腫瘤があるということで他院より手術目的で転院されてきた。
腹部超音波検査およびレントゲン検査において、膀胱頸部背側に直径3センチほどの腫瘤が存在することにより、排尿が困難になっていることが分かった。
また、手術前問診では、症例は避妊手術済み雌という事であったが、腹腔内に液体貯留をしている構造物が多数認められたため、おそらくは卵巣および子宮はまだ腹腔内にあるのではないかという事を疑った。
手術済みという事があったので、仮ではあるが、卵巣子宮摘出および膣部の腫瘤摘出が必要であると考えられた。
15歳という高齢であるという事と、心臓病を患っているという状態であったが、ご家族と話し合った結果、手術を実施することとなった。
治療方法
開腹を行い、まずは想定通り卵巣と子宮を確認し、摘出を行った。
次いで、膀胱を反転させ、膀胱背側に存在していた膣部の腫瘤の摘出を行った。
ーーー以下病理検査所見ーーー
両側の卵巣では、卵巣の表層を覆う上皮細胞由来の腫瘍が形成されています。良性の腫瘍ですが卵巣嚢外に浸潤すると腹水の貯留や腹膜への播種が起こります。明らかな卵巣嚢外への浸潤は認められず、今回の摘出により予後は良好である可能性が高いと考えられますが、大型の腫瘤が形成されていることから、念のため、
腹水の状態について経過観察をお勧めします。
膣の腫瘤は、平滑筋由来の良性腫瘍と診断されます。平滑筋腫は、高齢の雌の膣、子宮、外陰部などに好発します。最小限のマージンでの摘出となっていますが、腫瘍の境界は明瞭で、周囲組織への浸潤性は認められません、今回の摘出により予後は良好と考えられます。
子宮では、子宮角の粘液貯留による拡張が認められ、子宮水腫と診断されます。このような病変は、加齢や性ホルモンバランスの異常に基づく変化で、子宮蓄膿症の前駆病変と考えられる病変です。検索した組織では、炎症性の変化は認められません。
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治療・術後経過
膣部の腫瘤に関しては、排尿をつかさどる神経を温存するために最小限のマージンによる摘出となってしまっているので、注意して経過観察を行うこととした。
症例は手術翌日より自力排尿を行えるようになり、術後も良好に回復した。
経過良好。
担当医:白井 顕治
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