犬の乳腺腫瘍の再発を予防するにあたりいくつも重要な点があるが、その一因として犬の乳腺は陰部周辺まで存在するため、乳腺の取り残しがないよう切除することが重要である。また、同時に卵巣子宮を摘出することによって、ほかの乳腺に乳腺腫瘍が形成される確率が半分になることが報告されているため、同時に卵巣と子宮を摘出することも重要である。
今回の症例では全切除を行った。写真で見ると、そこまで腫瘍がない様に感じられるかもしれないが、病理検査の結果、実際に乳腺腫瘍がなかった乳腺は左第二乳腺のみであることがわかる。
乳腺腫瘍は良性であっても、時間経過とともに拡大・悪性化することが報告されているため、良性であっても手術適応となる。
また、今回の症例では初めに乳腺腫瘍が確認されてから十数か月経過観察を行っていたという経過もあった。今回のように乳腺全切除という選択は進行していなければ行わないで済む術式である。乳腺付近にしこりを触知した場合には、早めの検査と診断、そして部分摘出で済ませてあげることも重要な因子である。
実績詳細
トイプードルの化膿性子宮内膜炎と再発乳腺癌の手術
種類 | トイプードル |
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年齢 | 10歳 |
診療科目 | 軟部外科・整形外科 腫瘍科 |
症状 | 元気と食欲がない 数か月前に他院で乳腺腫瘍の摘出術を行ったが、術部にしこりができている |
症状の概要
検査結果
症例は左最後乳腺にしこりが形成されたため、数か月前に他院にて乳腺切除を行っていた。
術部直上およびびまん性に左右の乳腺に腫瘤が認められた。
しかし、腫瘤が存在するだけでは元気食欲が低下する直接の原因とは考えにくいため、さらなる精査を実施したところ、血液検査及び腹部超音波検査より子宮蓄膿症が疑われた。
ご家族と相談を行った結果、治療のため全乳腺及び卵巣子宮摘出を行う事とした。
(※腫瘤はFNAにて、乳腺関連腫瘍であることを確認してあります)
治療方法
通常は開腹を行い卵巣子宮を摘出してから乳腺を切除するが、今回は再手術症例であり、腹筋切開部に腫瘍が固着していたため、腹腔内に腫瘍細胞が混入することを避けるため、先に乳腺切除を行った。
左右全乳腺及び、再発腫瘤の底部は筋膜も併せて切除した。
乳腺切除後に腹筋切開および開腹を行い蓄膿した子宮を摘出した。
卵巣子宮摘出後に皮膚縫合を実施し、手術終了とした。
治療・術後経過
Y字になっている部分が軽度の癒合不全を起こしたが、良好に完治した。
手術翌日
手術14日後
抜糸を行った
手術21日後
エザベスカラーを外し、治療終了とした。
ーー以下病理検査結果所見ーーー
左3:乳腺腺癌 低悪性度 mammary adenocarcinoma
右1、2、3、4、左1、3:乳腺腺腫 mammary adenoma
2:良性乳腺混合腫瘍 benign mammary mixed tumor
右鼠径リンパ節:腫瘍性病変なし
子宮:化膿性子宮内膜炎 suppurative endometritis
卵巣:多発性嚢胞 multiple cysts
切除された乳腺では、複数の結節性の腫瘍が形成されていますが、いずれも良性あるいは低悪性度に分類される腫瘍です。腫瘍の境界はいずれも明瞭で、マージン部やリンパ管、鼠径リンパ節への明らかな浸潤は認められません。
摘出状態は良好で、これらの病変に関しては、今回の切除により予後は良好と考えられますが、左3乳腺の腫瘍は悪性傾向を示す腫瘍であることから、念のため、鼠径リンパ節などの状態について経過観察をお勧めします。
子宮では、内膜過形成を伴った慢性的な化膿性炎症が認められます。子宮内膜の過形成に、二次的な細菌感染が起こったために蓄膿に至った病変と考えられます。
両側の卵巣では、複数の嚢胞が形成されており、多発性嚢胞と診断されます。この変化は、しばしば偶発的に卵巣に認められる非腫瘍性変化です。
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現在経過観察中。
術後2日目より自力で採食をはじめ抜糸時には活動性も改善していた。経過良好です。
担当医・執刀医:白井 顕治
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