犬の肥満細胞腫は様々な外見を呈します。また、腫瘍の硬度も軟らかいものから固いものまであるため、通常の腫瘍科の診療としては、犬の体表に形成された腫瘍は、すべて肥満細胞腫を除外することが肝要となります。肥満細胞腫の治療として第一に挙げられるのは外科的な摘出ですが、転移の状況や摘出状況、腫瘍が形成された場所、大きさ、また、今回の症例に挙げたようなc-kit遺伝子変異の有無により手術、手術+抗がん剤、手術+放射線、手術+分子標的薬、分子標的薬のみなど、さまざまな治療プランが提案される可能性があります。不準備な手術を行うと摘出不良となってしまう可能性があるため、術前に治療計画をしっかりと建てる必要があります。
実績詳細
ミニチュアダックスフントの右大腿部に形成されたグレードⅡ肥満細胞腫(c-kit変異あり)
検査結果
症例は元気活発で、臨床症状は認められない。
右大腿部後部に直径3センチほどの腫瘤が形成されていたため、診断を行う目的で針吸引生検を実施した。
ーーーーー以下針生検所見ーーー
円形や類円形の細胞が多数得られており、一部の細胞に紫色の顆粒が認められることや好酸球浸潤を伴っていることなどから、肥満細胞腫が疑われます。確認できる範囲では、細胞異型性は軽度ですが、肥満細胞腫は転移する可能性があります。
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局所のリンパ節に腫脹は認められず、また、腹腔内の腸骨化リンパ節群にも主張は認められなかった。
リンパ節転移のない肥満細胞腫で、十分な外科的マージンが取れる部位での発生であったため、手術を実施した。
治療方法
術前の様子
十分な水平方向のマージンを取って腫瘍とともに膝窩リンパ節の切除を行った。
術部の閉鎖には後腹壁動静脈を用いた皮膚転移を用いた。
摘出された肥満細胞腫
治療・術後経過
手術3日後
手術14日後
術創は感染や壊死を起こすことなく良好に治癒した。抜糸を行った。
ーーー以下病理組織所見ーーー
採取された右大腿の皮下の腫瘍は、肥満細胞腫と診断されます。病変が皮下に形成されていることから、皮膚のグレード分類は適応されませんが、細胞の形態的にはグレード2に相当する腫瘍と考えられます。腫瘍の境界は明瞭で、底部には筋層が含まれており、摘出状態は良好です。右膝窩リンパ節にも腫瘍性の病変は認められませんが、肥満細胞腫は潜在的に悪性の腫瘍であり、大型の腫瘤が形成されていることから、引き続き、経過観察をお勧めします。
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また、遺伝子検査を行った結果、c-kit遺伝子に変異が確認された。
今回の腫瘍に対する治療では外科的マージンが得られていたため、また、現在、術部に再発の様相はないため、術部の経過観察を行っていき、再発などの兆候が認められた場合にはパラディアなどのc-kit遺伝子変異に対する分子標的薬を使用していくこととした。
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