こんにちは、獣医師の白井顕治です。
この記事では、病院で行う業務のうち、とても大切な「診断」について記事にさせて頂きます。
病院では、大きく分けて、健康な仔に対する「予防」と、病気の子に対する「診断」と「治療」を行っています。
病気の仔がいた場合には、検査を行い「診断」を下して、その診断をもとに治療方針・治療目標を決定して、それに則って治療を行っていき、目標を達成します。
ちょっと硬い文章で書いてしまいましたが、基本的にはこの流れで治療をしていきます。
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例を出すと、
骨折してしまった。
検査の結果、左前肢の単純な横骨折だった。
治療目標として、出来るだけ早く、そして正常な形につくようにしようということにした。
そのため、手術でプレートを用いて整復し、術後3日目からは歩けるようになった。その後は、数か月後にプレートを除去し、治療終了とした。
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他の例では
皮膚がかゆい
検査の結果、アトピー性皮膚炎の疑いが強いことが分かった
まずはかゆみをコントロールするために飲み薬を飲んだ。
痒みは改善し、ほぼゼロになった。
アレルギー性皮膚炎の場合には、治療は何らかの形で終生続くことが多いため、出来るだけ、長く飲んでも副作用が起きにくい薬に変更した。
また、薬を減らせるように、スキンケアをがんばっていって、病状を維持することにした。
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等、診断をはじめとして一連の「起承転結」が起きます。
もちろん、すべての病気に必ずしも検査・診断を下す必要はなく、問診より一過性の胃腸炎や気管支炎が疑われる場合には、まずは経験的な治療を行い、その治療に反応し、再発しないようであれば仮診断での治療終了となることが多く、実際の診療ではこういったケースが過半数を占めます。
ただし、病状が一般的でなかったり、症状が重く緊急性を有していたり、経験的な治療に反応しない、もしくは反応するが、治療をやめるとまた症状が再発してしまうといったケースでは、しっかりと診断を行う必要があります。
診断を行う上でのメリットは、病気の名前が決まることです。
病気の名前が決まると、それぞれの病名に対して、治療方法や薬に対する反応率、そして予後などが詳細にわかっているものが多いため、良くも悪くも今後の見通しがつきます。
飼い主様からよく出る質問にある「どのくらいで治りますか?」「薬は減らせませんか?」「完治するのですか?」「命に別状はないですよね?」というような質問に対し、医学的にわかっている範囲で明確に答えることができます。
デメリットとしては、検査費用が掛かってしまうということや、診断を行うためにCTやMRI、骨髄穿刺が必要になってしまう病気の場合には、麻酔をかけたり、痛みを伴ってしまうというデメリットがあります。
このメリットとデメリットのバランスは、病気によっても異なりますし、飼い主様ごとに受け取り方が異なると思いますので、よく相談してどこまでの検査を行って、本当に確定診断を行う必要があるのかどうかについてもよく話し合う必要があります。
また、トレードオフなお話になりますが、あまり検査を行わず、問診や確定診断に至らない検査による仮診断に基づいた治療のデメリットは、診断がくだっていないため、上記のような先行きの見通しを明確にお話しすることができません。
病気が確定していない以上は、明確な事はいうことができないからです。
ここまでを読むと、「確定診断を下すことが正しくて、確定診断を下さずに治療することはあいまいでよくないこと」ととらえられてしまうかもしれませんが、必ずしもそうだとは思っていません。
例えば、診断を下すための検査が、ペットに対して身体的精神的に負担が大きい場合や、費用が掛かりすぎてしまう場合、そして、仮に診断を下したとしても、その後の寿命の延長が望めないような病状が強く予想される場合や、ペットが非常に高齢である場合には、仮診断をもとに、治療もしくは対症療法を行うことも比較的よくあります。
そういった場合にも、ご家族と獣医師が相談し合って今後について決めて、一緒にそちらの方向に向かっていくことが肝要となりますので、今回の記事で最も大切なことは、「確定診断を付けること」というよりも、「ご家族と診断・治療方針について良く話し合って決めていくこと」だということだと思います。