目次
どの部位の毛が抜けているか
頭部の毛が無いときに、部位別に多いところをまとめると
耳、目の周り、口の周り、あご、おでこ、鼻の周りに分けることができます。
これらの部位の毛がなくなることはほとんどの場合病的な異常と考えられます。
また、例えば耳の毛が抜けている、脱毛している、剥げているなどの症状が出ている場合、耳が全体的に毛が抜けているのか、部分的に毛が抜けているかということも病気の判断に関わってくる情報です。
痒みはあるか
どの部位の毛が抜けている、もしくはなくなっているかという次に、猫自身がその部位を痒がってこすったりかいたりしているかということも重要な情報となります。
猫はもともとグルーミングをする動物ですので、毛づくろいなのか掻いているのか見分けることが難しい場合もありますが、掻きすぎて出血しているような場合にはグルーミングではなく搔いていると判断できます。
毛がない部位は左右対称か
感染症が原因の場合には、多くの場合左右不対称な病変となります。逆にアレルギーに関連した病変の場合には左右対称に出ることが多いため、重要な情報となります。
しかし、感染であっても左右対称に感染が起きていることや、アレルギーであっても片側にしか発生しておらず、時間差で左右対称となる場合もあるため、あくまで補足的な情報となります。
また、ストレス性である場合には片側性も両側性も脱毛を起こす可能性があります。
片側だけに脱毛を起こしている心因性脱毛
片側のおでこにのみ脱毛を起こしているアトピー症候群
毛がない部分は拡大しているか
時間経過とともに毛がなくなっている部分が拡大しているのか、あまり広がっていないのかというのは重要な情報です。
感染性である場合には病変は徐々に広がっていくことが多く、アレルギーなどに関連した病変であれば、局所のかゆみや炎症がひどくなったりはしますが、脱毛している部位はあまり拡大しません。
ただし、アレルギーに関連した病変であっても、程度が悪化するとともに徐々に拡大することもあるため、こちらも補足的な情報となります。
ステロイド皮膚症の場合には、皮膚に塗った部位よりも、薬剤の浸透によってより広範囲に脱毛することもある。
また、塗布した部分のみ、部分的に脱毛を起こす場合もあります。
猫の耳の毛が抜けている(耳はげ)
耳の毛が抜けている(はげができてしまった)場合、耳の中や耳たぶ(耳介)を痒がっている可能性が考えられます。
そういった疾患は、耳ダニや疥癬症(カイセン)、皮膚糸状菌症やアトピー症候群などが考えられます。
また、猫の耳介は非常に薄いため、これらの疾患に対する治療として局所にステロイドが含まれている外用剤を塗布することによって脱毛してしまうこともあります。
耳ダニや皮膚糸状菌症は片耳のこともあれば両耳のこともあります。疥癬症やアトピー症候群の場合には両側性に発症する可能性が高いと考えられます。
また、かゆみについて、感染数の少ない耳ダニや皮膚糸状菌症では、あまり強く痒みを出さないこともあります。
また、耳の脱毛(はげ)といっても、耳介(みみたぶ)の辺縁なのか、耳の後ろ側なのか等、場所によっても考えられる疾患が異なります。
アトピー症候群による耳介の脱毛を呈している猫
皮膚糸状菌の感染が耳介及びおでこに認められた猫
ステロイド軟こうを長期間塗布したため、副作用によって脱毛を呈している
【↑症例】若齢猫の皮膚糸状菌症
猫の眼の周りの毛がない
結膜炎(ヘルペスウイルス性角膜炎・結膜炎やクラミジア性角膜炎・結膜炎など)、腫脹している場合には肥満細胞腫やリンパ腫などの腫瘍性疾患、両目である場合にはアトピー症候群の可能性などが鑑別疾患として挙げられます。
この中で、アトピー症候群が最も両目に出る可能性が高く、結膜炎は片側のこともあれば、両側に出る可能性もあります。ヘルペスウイルス性結膜炎の慢性経過をたどっている猫ちゃんも、片目からのみ涙が出続けるという症状は珍しくありません。
腫瘍性疾患はほとんどの場合片側で、部位も限定されていることが多いです。
角膜・結膜炎による不快感や流涙、炎症によって目の周囲の被毛が薄くなっている症例
アトピー症候群の症状の一環として眼瞼の被毛が薄くなっている。また、眼瞼の腫脹が認められる。
【↑症例】猫の疥癬症
猫の口の周りの毛がない
口の周りの毛がない場合には、アトピー症候群や皮膚糸状菌症への感染が考えられます。また、腫脹している場合には口唇に形成された腫瘍である可能性があります。口内炎がひどく流涎が激しい場合には、流涎をぬぐっているうちに毛が薄くなってしまうこともあります。
口腔内の腫瘍によって流涎がひどく出ている
口唇に形成された腫瘍
アトピー症候群の症状の一環として口唇に腫脹と脱毛が認められる
猫のあごの毛がない
猫のあごの毛がなくなる場合には、最も可能性が高いものとして挫創(ざそう、あごにきび)が考えられます。特発性に生じることもあれば、雄性ホルモン関連と考えられる場合、そしてアトピー症候群の一環として発生している可能性が考えられます。それ以外のあごの病変としては、腫瘍やのう胞、外傷による瘢痕などが脱毛の原因として挙げられます。
いずれもアトピー症候群の症状の一環として挫創が認められた症例
【↑症例】雑種猫の下顎に形成された痤瘡(顎ニキビ、アトピー症候群)
猫のおでこの毛がない
おでこの毛が薄い場合、程度によっては生理的である場合もあります。ネコのおでこと口唇付近にはそれぞれマーキングを行うための腺があるため、気に入った家具や人に対してすりすりこすりつけていくうちに薄くなってしまう仔もいます。
ただし、非常に毛が薄くなったり、赤く炎症を起こしている場合にはアトピー性疾患や腫瘍性疾患、皮膚糸状菌症などの感染性疾患を鑑別として考えます。
甲状腺機能亢進症に対する治療薬に対する薬疹が発生してしまった症例(左が投与前)
アトピー症候群の症状の一環として耳介とおでこに脱毛が認められる
左目および左眼窩内に腫瘍が認められることによって、おでこの毛が薄くなっている
【↑症例】ロシアンブルーの甲状腺機能亢進症の治療に対するアレルギー
その他の部位
鼻の周りや頭頂部が脱毛することは稀ですが、起こった場合には皮膚糸状菌症などの感染性疾患や腫瘍性疾患、ケンカなどの外傷の瘢痕化の可能性などが考えられます。また、心因性にストレスから自傷行為として脱毛してしまうこともあります。ストレス性の場合には、片側性のことも両側性のこともあります。
外傷による脱毛
治療方法
上記のいずれの疾患なのかをしっかりと診断し、感染性の場合には病原菌に対する薬を用いて、腫瘍性である場合には手術や薬による治療、アトピー症候群であれば免疫抑制療法や低アレルギー食への変更などを考えていきます。
猫は犬と比較して内服薬を飲むのが難しいことも多いため、しっかりと診断を行い治療することが重要です。
著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)副院長
獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。
当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。