目次
ステロイド剤とは
ステロイドホルモンとは、腎臓の近くにある副腎という臓器から放出されるホルモンの1種です。
ステロイド剤は、その強さや効力の違いがあるため、複数のステロイド剤が存在します。
よく処方されるステロイド剤
獣医療において、比較的よく処方されるステロイド剤は、プレドニゾロンやデキサメサゾン、トリアムシノロンなどがあげられます。
どんな時に処方される?
ステロイド剤は低用量では抗炎症薬として、高容量では免疫抑制剤として効果を発揮します。
亢進してしまった免疫状態を抑制したり、正常の免疫力を低下させたい場合に使用します。
悪性腫瘍の一つであるリンパ腫の治療にも用いられます。
その他、珍しいケースですが、高カルシウム血症の治療であったり、アジソン病(副腎皮質機能低下症)の場合に補充として用いることなどもあります。
また、人では臓器移植などに対する拒絶反応を抑制する目的でも使用されますが、獣医療において臓器移植は一般的な治療法ではありませんので、この目的で使用されることは稀であるといえます。
具体的な疾患名は?
アレルギー性皮膚炎や免疫介在性疾患(免疫介在性溶血性貧血、肉芽腫性眼瞼縁、無菌性皮下脂肪織炎)などがあげられます。
また前述のリンパ腫やアジソン病なども入ります。
その他にも多くのステロイドを必要とする疾患が存在します。
ステロイド剤にはどんな作用があるの?
ステロイド剤の作用をすべて記載すると、本が1冊かけてしまうほどの情報量になります。
また、人においては全DNAの10%程度にグルココルチコイド応答配列が存在している可能性が示唆されているため、ステロイド剤の作用は多岐にわたります。
主な作用を簡単に要約をすると
グルココルチコイドの作用として抗インスリン作用による血糖値の上昇、たんぱくの異化促進、免疫細胞のサイトカイン放出の抑制
ミネラルコルチコイドの作用としてナトリウムやカリウムなどの電解質と共に体液量の調節を行っている。
ステロイド剤にはどんな剤形があるの?
ほぼすべての剤形が存在すると考えてよいでしょう。
錠剤、粉、シロップなどの内服薬、塗り薬や点眼薬などの外用剤、各種注射薬、喘息などに用いられるエアロゾル剤も存在します。
ステロイド剤の副作用は?
短期的な副作用と長期的な副作用に分けられます。
短期的な副作用としては、食欲が増進したり、たくさん水を飲んだりします。
完全に機序は解明されていないようですが、ステロイド剤が脳に作用して嗜好性を変化させているためと考えられています。
例として、人間の女性が妊娠期に急にフライドポテトや柑橘系の果物が食べたくなるという現象が子の副作用に似ていると考えられています。
たくさん水を飲むため、たくさんのおしっこも出ます。
長期的な副作用としては、臓器の萎縮(皮膚や毛包)や、肝臓の代謝異常、糖尿病の誘発や免疫抑制による易感染性などがあげられます。
ステロイドの副作用の見分け方
まず、当然ですがステロイド剤を使用しているかを観察します。まれなケースですが、ご家族がステロイドのハンドクリームを使用しており、その影響でペットにステロイド剤の副作用が現れるなどのケースがあります。
そのため、まずはご家族の誰かがステロイド剤を使用しているかどうかを問診によって聞きます。
次に動物病院でステロイド剤を処方されたことがあるかどうかを聞きます。
ご家族及びペットにステロイド剤の処方歴がない場合には、ステロイド剤の副作用の可能性はほぼなくなります。
例外的に、体内で自分でステロイドホルモンを過剰に分泌してしまう疾患(クッシング症候群)の場合には、ステロイド剤の使用を行っていなくてもステロイド剤を使用した時の方な症状が現れます。
ステロイドを使用していたとしても、必ず副作用が出るわけではありません。生体内でもステロイドホルモンは産生されているため、少量であれば生理的な量として副作用を出さないこともあります。
犬と猫でステロイド剤の副作用はどんな症状が出る?
犬においては水をたくさん飲んで尿が多くなる多飲多尿、多食が最も高頻度に認められます。
猫においては上記のような行動異常はそこまで認められませんが、糖尿病やクッシング症候群、皮膚剥奪症候群などが認められることがあります。
ステロイドの副作用に対する対処方法は?
副作用を止めたい場合に最も早く効果的な方法は、ステロイド剤の使用を止めることです。
ただし、ステロイド剤によって疾患がコントロールされている場合には、作用と副作用のバランスを見て主治医と相談しましょう。
また、ステロイドを減薬する目的で、そのほかの薬剤と組み合わせる方法も用いられることがあります。
他には、予防的に強肝剤と共に使用すると副作用が出にくいという報告も出ています。
まとめ
一昔前に、すぐにステロイドを処方するので「ステロイド獣医師」という名前が作られたこともありますが、現在ではそのような獣医師は少ないと考えています。
しかし、その「ステロイド獣医師」という言葉の名残の影響で、ステロイド剤を適正に使用しているにもかかわらず、ご家族にしっかりとステロイドを処方していることを伝えられてないケースに時に遭遇します。
ステロイド剤は悪い薬ではありません。ステロイド剤を処方するという行為も、悪い行為ではありません。ステロイド剤は重要な大切な薬であり、もしもステロイド剤が無くなってしまった場合には困るペットが大量に出るほどです。
ステロイド剤に限らず、処方する薬についてはその特徴や考えられる副作用について要点を(※)伝えるべきですが、特にステロイド剤に関してはご家族にも影響が出る可能性もあるため、きちんと伝えることは必要なことです。
(「要点を」と書きましたが、すべての薬剤についてきちんと必要十分に説明する、そしてそれを飼い主様が理解する時間は通常の動物病院の診療時間内では不可能と考えられますので、「要点を」と記載しました。)
また、現在はステロイドを休薬・減薬するために様々な代替薬の開発も進んでいます。過度に拒否をするのではなく、上手に使用して極力深刻な副作用の発生率を下げていくことが重要であると考えています。
著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)院長
獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)獣医内科認定医・獣医総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。
当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。