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犬と猫に多い口の病気は?
犬と猫には、人と異なり虫歯(齲歯)はほとんど発生しません。
その代わりに発生率の高いのが歯周病です。歯周病は「歯」の「周り」の病気と書いて歯周病ですので、主な病気の場所は歯の周囲の歯茎やあごの骨になります。
あごの骨は通常は外から見ることはできませんので、ほぼすべての飼い主様が「歯茎が赤い」「歯が汚れている」「口が臭う」などの主訴で来院されます。
口が臭うのは歯周病?
必ずしも臭く感じたからといって歯周病が存在しているとは限りません。食後すぐだったり、寝起きすぐである場合には、口腔内のにおいが普段よりきつく感じることもあります。
しかし、すでに歯石が付着していたり、歯肉に炎症が認められたり、その炎症部位から排膿が認められる場合には歯周病による講習の悪化の可能性も考えられます。
口臭にも種類があり、歯周病に罹患していると歯周病菌が増殖し、その菌群がメチルカプタンやジメチルサルファイドなどの人がより悪臭と感じるにおいの原因物質を産生します。
これらのにおいの原因物質は臭いと感じるだけでなく、歯周病をさらに悪化させる要因にもなりえるので、「なんか臭くなったな・・・」と感じたらひとまず獣医師に確認してもらうとよいでしょう。
歯茎が赤くはれていたら?
犬や猫の歯茎が赤くはれている場合には、歯周病や口内炎、腫瘍の可能性が考えられます。
腫瘍は良性腫瘍のこともあれば悪性腫瘍である可能性もあります。
犬や猫の歯周病は痛い?
痛みの感じ方は人間と比べると鈍感なことが多いですが、個体によります。かなり進行した歯周病でも痛みの症状を出さない症例もいれば、昨日までは何ともなかったのに急に痛みを感じるような症例もいます。
歯周病の場合には、口を気にしてこすったり、鼻先をぺろぺろなめたり、くしゃみが良く出るといった症状が出ることもあります。
また、痛みによって流涎がひどくなったり水をよく飲むようになるような症状を出す症例もいます。
口内炎の痛みによって流涎が出ている
自宅でのケアは?
自宅でできるケアは、歯磨きシートや歯ブラシ、歯垢を落としやすくするサプリメントや歯磨きガムなどがあげられます。
これらのケアはあくまで「悪化する速度を緩やかにする」ことが目的であるため、今よりもきれいにすることは基本的にはできません。
上記の中では、歯周ポケット内まで清掃できるのは歯ブラシのみですが、ハードルが高いのも歯ブラシです。理想的には歯ブラシを使用して歯を磨いてあげることが一番ですが、ハードルが高いために長続きしなかったというご家族もたくさんいます。
ですので、私としてはどんな方法でもいいので、毎日何かしらのケアを継続することが一番重要であると考えています。
「歯ブラシが最高」と言い切ることもまた難しいです。
人用のオーラルケア用品を見てもわかるように、通常の歯ブラシ以外にも歯間ブラシ、ポイントブラシ、舌クリーナー、種々の歯磨き粉、口に含んでぶくぶくする薬品(語彙力…)など、いろんな製品がありますよね?
沢山の製品があるのは、歯ブラシだけでオーラルケアが完結しないことを意味しています。
このようなことからも、「歯ブラシが使えないから、ほかのオーラルケアはしない」ということより「できる範囲内で頑張ろう」という方がより現実的であるように思っています。
自宅での口腔ケアと動物病院でのスケーリングの違いのイメージ
時間の経過と歯の汚れ具合を折れ線グラフで表してみます
1歳の時に歯が生えたときが最もきれいな状態であるとします。
下の「汚い」というのは抽象的ですが、歯の汚れもあるし、歯周病も進行しているし、口腔内の衛生状況がよろしくない状態だと思ってください。
生きていて、口を使って食事をしていれば、ある一定のスピードで歯垢が付き、歯石になり、歯周病になり、状態は悪化していきます。
ある程度汚れてから、「⇓」のところから自宅で歯磨きを始めると、汚れる速度が緩やかになります。
「もうこんなに汚いから、今更歯磨きしても遅いですよね?」と聞かれることがありますが、【今以下】は常にあるので、遅いことはありません。
ただ、あくまで進行を遅くするにとどまります。
動物病院で全身麻酔をかけてスケーリングを行うと、歯垢・歯石を除去して口腔内の衛生環境を一気に引き上げることができます。
理想的には、スケーリング後は自宅でも口腔ケアを行い、悪くなる速度をより緩やかにしていく努力をするとよいでしょう。
まとめ
犬や猫の歯茎が腫れているときには、確率的には歯周病であることが最も多いです。ただし、歯周病には様々な理由があったり、時には腫瘍のこともあるので、まずは獣医師の診断を仰ぎましょう。
歯の汚れからくる歯周病だった場合、全身麻酔をかけてひとまずきれいに磨き上げるのか、自宅でオーラルケアを行い今より悪化する速度を緩やかにするのかなど、ご家族に会った治療方法を決めていくとよいでしょう。
著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)副院長
獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。
当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。