肛門嚢(こうもんのう)とは
通常「肛門腺」と呼ばれている構造物は、正確には肛門嚢と呼ばれているもので、時計でいうと肛門の4時方向・8時方向にそれぞれ一つずつ存在する嚢状の構造物です。
正しくは肛門嚢ですが、あまりにも「肛門腺」と覚えている方が多いため、診察中も「肛門腺」と表現してしまうことがあります。
肛門嚢に向かって、肛門嚢腺が開口しており、肛門嚢の中に肛門腺液が貯留します。
肛門嚢は肛門括約筋内に存在しています。そのため、肛門腺液は力んだ時や排便時に合わせて校門付近から排泄されます。
正常な肛門腺液は液状で、黒~灰色~やや緑色等、色調は様々です。通常肛門嚢を絞っても出血は認められません。
また、正常な肛門腺液の粘稠度は、さらさらとした液状ですが、体調や年齢、食生活の内容によっては油粘土のように硬くなってしまうこともあります。
肛門嚢の破裂
出口がふさがってしまったり、肛門嚢内で強い炎症が起こったりすると、肛門嚢が破裂することがあります。
強い痛みを伴い、食欲が顕著に低下してしまうこともあります。また、お尻の周辺を触ると怒ることもあります。
肛門嚢が破裂した際の治療法
多くの場合、肛門嚢が破裂した際は、壊死組織を除去して感染を制御することによって治癒させることができます。
ただし、周囲の炎症や絵師が激しく、肛門括約筋や直腸などの重要な構造物が壊死してしまった場合には外科的な治療介入が必要となることもあります。
内科療法で治ることが多い疾患ですが、重度の場合や何度も繰り返す場合には程度によって外科的な治療の適応となる状況です。
肛門嚢破裂と間違えることのある病気
肛門嚢の破裂以外には、感染や腫瘍性疾患があげられます。
特に、肛門嚢に発生する腫瘍として肛門嚢腺癌は悪性度が非常に高いため注意が必要です。
また、お尻を気にしてこするという症状ですが、食物アレルギーなどでは口や肛門粘膜にかゆみを呈することがあるため、破裂しそうな肛門嚢を気にしてこすっているのか、肛門自体を痒がってこすっているのかを見極める必要があります。
まとめ
肛門嚢を定期的に絞り、痛みや炎症、出血がある場合には動物病院を受診しましょう。
肛門嚢を絞る適正なタイミングは個体差があるため、特に指標はありませんが、多くのペットで月に一回くらいは絞るといいよとお伝えしています。
著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)院長
獣医師、医学博士
日本動物病院協会(JAHA)獣医内科認定医・獣医外科認定医・獣医総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。
当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。