犬の乳腺腫瘍は避妊手術を行っていない、未経産の中高年のメス犬に多発することが知られています。腫瘍は約50%の確率で良性(良性:悪性=1:1)であるということが言われていますが、複数個ある場合にはいずれかが悪性の可能性が高いという報告があります。また、卵巣子宮摘出手術についてですが、乳腺腫瘍を摘出する際に卵巣と子宮の摘出を行わなかった場合、術後乳腺い腫瘍が形成される確率が2倍に上昇することが知られています。そのため、乳腺腫瘍を摘出する際には卵巣子宮を併せて切除する必要性があります。
乳腺の摘出方法には乳腺腫瘍の大きさや局在、個数によって局所切除・乳腺単切除、乳腺1/4切除、片側乳腺全切除がありますが、両側乳腺全切除は術後に呼吸不全に陥る可能性が高いため、推奨されている術式ではありません。今回の症例のように両側の乳腺に複数個の腫瘍が存在する場合には両側乳腺全切除を行う必要がありますが、その場合には手術を2回に分けて行う必要があります。
また、病理検査の結果によっては術後に抗がん剤を加療することもあります。
実績詳細
コーギーの乳腺腫瘍の手術(乳腺癌・乳腺腫瘍)
種類 | コーギー |
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年齢 | 11 |
診療科目 | 軟部外科・整形外科 腫瘍科 |
症状 | 乳腺にしこりがある。 |
症状の概要
検査結果
初診時、右第2乳腺と左第3乳腺に直径3センチほどの腫瘤の形成が認められていた。
避妊手術は行っていなかった
乳腺腫瘤が複数個存在する場合にはいずれか1つは悪性の可能性が高い
乳腺腫瘍は現在良性であっても、悪性化することがある
以上の理由より、手術を行うことを提案したが、ご家族が手術に対して不安があるため、経過観察を行うこととした。
この時に提案した手術法は、卵巣子宮摘出および片側乳腺全切除を行い、時期をおいてからもう片側の乳腺も手術する予定を提案した。
初診時より3か月後、
右第2乳腺が直径13センチほどまで拡大し、破裂しそうなため再来院した。
初診時と比較して、右第2乳腺の顕著な増大とともに、右第3,4,5乳腺にも腫瘤が認められた。
また、左第3乳腺もやや拡大しており、左第4,5乳腺にも腫瘤形成が認められた。
術前検査を行った結果では転移性病巣は検出されなかったため、破裂を回避する目的で手術を行った。
治療方法
卵巣子宮摘出および右片側乳腺全切除を行った。
まず開腹し、卵巣子宮の摘出を行った。
肉眼的に卵巣や子宮に腫瘍性病変は認められなかった。
閉腹し、乳腺切除へ進める。
切除後
切開を行うと皮膚は収縮するため、実際に切除を行ったよりも術創は1.3倍ほどに広がる。
切除を行った乳腺組織
(中央で分断して上下に分けて切除を行ったため、2つに分かれている。)
皮下織を剥離し、減張縫合を行うことによって術創を閉鎖することができた。
また、腫瘍細胞の播種を防止するため、腫瘍切除後は器具を変えて閉創を行っている。
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病理検査所見
右2:乳腺腺癌 mammary adenocarcinoma
右2、3、4:乳腺腺腫 mammary adenoma
右5:良性乳腺混合腫瘍 benign mammary mixed tumor
右鼠径リンパ節:腫瘍性病変なし
子宮:子宮内膜嚢胞状過形成 卵巣:多発性嚢胞 multiple cysts
乳腺では、右2乳腺部に悪性の乳腺腫瘍が形成されています。腫瘍の境界は明瞭で、マージン
部やリンパ管内に腫瘍細胞は確認されません。摘出状態は良好ですが、非常に大型で、形態的に
は悪性の腫瘍であることから、引き続き、経過観察をお勧めします。
その他の乳腺では、複数の結節が形成されていますが、いずれも良性の腫瘍と診断されます。
これらの腫瘍に関しては摘出状態は良好で、今回の切除により予後は良好です。
子宮では、子宮内膜の過形成が起こっています。このような変化は、子宮蓄膿症の前段階と考
えられる病変ですが、検索した組織では明らかな炎症や腫瘍性の病変は認められません。
両側の卵巣では、複数の嚢胞が形成されており、多発性嚢胞と診断されます。この変化は、し
ばしば、偶発的に卵巣に認められる非腫瘍性変化です。
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治療・術後経過
手術翌日から歩行し、食欲も旺盛であった。
手術2日後
術創は化膿することもなく、良好に治っていった
予定では、1~1か月半ほど時間をおいて、もう片側も手術する予定であるが、ご家族と手術を行う時期を計画していく。
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