良性・悪性を併せれば、犬の乳腺腫は避妊手術を行っていない雌犬で最も多く発生する腫瘍です。発生は5歳以降に多く、良性・悪性にかかわらずしこりとして触知され、外科療法によって治療を行います。
統計学的に評価すると、発生した腫瘍の50%が良性、25%が早期から転移の起きる高悪性度の腫瘍、残りの25%が低悪性度の悪性腫瘍です。
つまり、外科療法によって75%の乳腺腫瘍は良好な結果を望むことができます。
原因としては性ホルモンの関与が指摘されていますが、それ以外の詳細については明らかにされていません。
腫瘍の発生には避妊手術との関連性が報告されており、生後1年以内に避妊手術を行った雌犬と比較して、避妊手術をしていなかったり、2歳以降に手術した犬では発生が優位に高くなっています。
前述のとおり、一般的には良性乳腺腫も悪性乳腺腫もしこりを形成しますが、非常に高悪性度の炎症性乳癌はしこりを作らずに、病変部の皮膚が赤く腫れたり、むくんだり、激痛を伴う事もあります。
診断については、問診や身体検査により乳腺腫瘍が第一に疑われることがほとんどですが、時に皮膚肥満細胞腫などその他の腫瘍との鑑別が必要になることもあります。
犬の乳腺腫瘍に対する診断は、一般的に摘出された乳腺腫瘍の病理診断によって行われるため、事前の針吸引生検で乳腺腫の良性・悪性を判断することはしません。(そのほかの腫瘍を除外するために行う場合があります。)
炎症性乳癌以外の犬の乳腺腫瘍の第一治療は外科療法であり、化学療法や放射線療法で縮小させたりすることは行いません。
老犬の場合、卵巣子宮に潜在的な異常が認められることが多いため、避妊手術をまだ行っていないわんちゃんの場合には、当院においては卵巣子宮摘出術も併せて手術を行います。
乳腺の切除方法は大きさや部位、腫瘤の個数によって、部分切除や四分の一切除、片側切除などが選択されます。
実績詳細
犬の乳腺癌に対する外科治療
種類 | コーギー |
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診療科目 | 軟部外科・整形外科 腫瘍科 |
症状 | お腹に腫れているところがある。 |
症状の概要
検査結果
身体検査では右下腹部、乳腺上に腫瘤が認められた。乳腺に起因した腫瘍が強く疑われたが、腫瘍の周囲は炎症もなく、痛みを呈していなかったため、手術が禁忌である炎症性乳癌である可能性は低いと考えた。パンチ生検などの組織学的な診断方法も提示したが、切除手術を行うこととした。
転移の有無の検査や術前検査の為、血液検査や胸部レントゲン撮影検査、腹部超音波検査を行ったが異常は認められなかった。
治療方法
術後の術部
手術は片側の乳腺をすべて切除する片側乳腺切除術を行った。
出血はほぼなかったが、皮膚の張力を減弱させるために減張縫合を行う必要があった。
摘出された片側乳腺
治療・術後経過
術部については、術後4日目に減張縫合の抜糸を行い、10日目に半抜糸、15日目に全抜糸を行った。
術部は途中、漿液の排出が認められたが、細菌感受性検査とそれに伴う抗生剤の変更により良好に癒合した。
(病理像)
ーー病理検査所見ーーーー
摘出された乳腺では、右2、左4乳腺部に結節性の腫瘤が形成されていますが、いずれも低悪
性度に分類される腫瘍です。いずれの腫瘍も周囲組織との境界は明瞭であり、マージン部やリン
パ管への明らかな浸潤性は認められません。これらの腫瘍に関しては、今回の切除により予後
は良好と考えられますが、特に左4乳腺部では、大型の腫瘤が形成されていることから、念のた
め、経過観察をお勧めします。
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病理検査より、低悪性度であるという事と摘出良好であること、そして院内における臨床検査において転移の兆候が認められないことから、1~2か月おきの定期検診として、追加の放射線治療や化学療法は行わなかった。
現在再発なく、元気に生活している。
治療担当医:白井 顕治
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