腹水が貯留している場合、抜去した腹水の性状を精査することによって、消化管穿孔を起こしているかどうかを調べることはそう難しくない。消化管穿孔を起こしている場合には、腹水中に細菌が認められるほかに、血液と腹水のグルコースやクレアチニンキナーゼを比較することによって診断することが可能である。消化管穿孔は異物や炎症、重責や腫瘍などによって引き起こされるが、穿孔が起こっている時点で開腹手術の適応となるため、穿孔の有無は迅速に判断し、認められた場合には速やかに対処を行うことが救命に際して重要である。
実績詳細
ボーダーコリーの十二指腸に形成された特発性壁内血腫
検査結果
症例は来院時すでに沈鬱状態で、体温が36.5度であり、衰弱していた。
内科療法に対して反応しないという主訴で来院。精査を行うと、腹腔内に血様の腹水が相当量貯留しており、腹水中から細菌が認められた。また、十二指腸の壁構造が崩れており、消化管穿孔が十二指腸で起こったことが示唆された。
消化管腫瘍による十二指腸穿孔をうたがい、ご家族と相談した結果、緊急開腹手術を実施した。
治療方法
開腹すると、画像診断で得られたとおりに十二指腸に穿孔を伴う病変が確認された。
十二指腸の変色部位は、十二指腸乳頭部まで認められたため、すべてを切除することは体力的に難しいと判断し、病変内切除を実施し十二指腸を端端吻合を行い、腹腔内洗浄後に閉腹した。
摘出された十二指腸
ーーー以下病理所見ーーー
検索した組織では、粘膜下から筋層にかけて、血腫が形成されています。複数の組織を作製しましたが、基礎疾患となるような腫瘍性の変化は認められません。原因については確定に至りませんが、物理的な刺激や異物などにより引き起こされた病変の可能性が示唆されます。マージン部には病変の波及は認められず、摘出状態は良好ですが、広範囲に及ぶ顕著な出血が起こっており、筋層の離開が起こっています。
ーーー
臨床所見と病理診断医の見解を統合し、十二指腸に形成された特発性壁内血腫(※)と、血腫による消化管穿孔と診断した。
※
獣医領域では特発性壁内血腫という診断は非常にまれな症例であるということで病理診断医の先生が人医療から診断名を外挿いたしました。
治療・術後経過
血腫であるため、病変部位を取り除けば通常予後は良好であるが、症例は来院時すでに意識混濁を起こしていたため、術後10時間後に容体が悪化し心停止に至った。
担当医:白井 顕治
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