佐倉しらい動物病院ブログ

蔓延している新型コロナウイルス感染症についてのコメント

この記事では現在世界に蔓延している新型コロナウイルス感染症についてのコメントを記載しています。

目次

1、初めに

2、お断わり

3、ウイルスというものについて

4、犬と猫とコロナウイルス

5、その他の動物とコロナウイルス

6、終わりに

1、初めに

現在(2020年3月10日)、日本にとどまらず、世界中で感染を広げている新型コロナウイルス感染症(以下、新型感染)について、動物病院に勤務する獣医師という立場から、文章を掲載しておきたいと思います。この件については、問い合わせは多くはないものの、ちらほらと、ウイルスについて、ウイルスが動物に及ぼす影響についてなどの質問をいただきましたので、そういったものについて答えている内容も含まれています。

2、お断わり

この「お断わり」という章が、記事の中で、最も重要な章であることを認識してください。

まず、私を含めた動物病院で働く獣医師は、感染症の専門家ではありません。ウイルス学や公衆衛生学など、単位取得のために大学で勉強はしますので、そうでない一般の方と比べると、やや、聞きかじった程度の知識はありますが、とてもではありませんが、その人間の意見を流布していいレベルの学識と経験を有していません。

「ウイルスの専門家です」といったとしても、通常、近年は専門性もより細分化されているため、それぞれのウイルスに対する専門家というのが存在します。なので、極端な例ですが、今回のウイルスについてエイズウイルスの専門家が何か言えることがあるかというと、あまりないはずです。

専門性が高く、きちんとした学識を備えている人間であればあるほど、自分の専門外のことには口を出しません。出せません。逆説的に、そのことについての専門家というのは、それだけの責任を有して発言しますので、誰が、どう証明して、それを発信しているのかという事は非常に重要なことです。

私は、日本大学の生理学研究室を卒業後、4年間ほど筑波大学医学部(正確には医学群)生命システム医学専攻において、博士課程を取得する一環で国際ウイルス学という分野に籍を置いていました。同時に、国立感染症研究所のウイルスに関連する部署の隅に所属させていただき、内容は話すことはできませんが、ここまで肩書にウイルスウイルス…って書いてあるので、ウイルスに関連した研究を行っていました。

しかし、その私であっても、すでにその分野を離れて臨床獣医師として勤務しているため、感染症の専門家でなければ、公衆衛生学に長けているとも言えません。

なので、皆さんが通われている動物病院の勤務医、院長先生も、新型感染について詳しいかと言われれば、こたえる内容は基本的には「テレビや報道を見て、それを受けて感じた個人の感想」の域を出ていない可能性が高いです。

こんな一介の動物病院の獣医師が、世界のだれも明らかにしていない真実をつかんでいるわけがありません。しかし「獣医師」という肩書がある以上、「問われたら何かを言わねば」という使命感があるのも事実です。ただ、使命感に駆られて言い過ぎてしまうことは危険なので、これだけは念頭に置いてこの記事を読んでください。

「この記事を書いている、私、白井顕治は新型コロナウイルス感染について、はっきりとしたことは、わかりません。」

しかし、それだけではせっかく記事を読んでいる方に納得をいただけないと思いますので、私が書ける範囲で、どうわからないのかという事を記載させていただき、この外出自粛の中での時間つぶしにしていただければと思います。

また、知識として「ウイルスって?」という事も、せっかくの機会なので、理解を少し深めても楽しいかもしれませんね。

(楽しいと感じるのは不謹慎かもしれませんが、どのように感じようと、残念ながらウイルスがなくなるわけではありませんし、新たな知識を得るという事は、やはり楽しいと思いますので。)

3、ウイルスというものについて

そもそもウイルというものは、生命かどうかも怪しい存在です。なぜかというと、ウイルスが単体で増殖することができないためです。ウイルスは、植物または動物の細胞内に入って、その細胞内の機能を間借りして、自分の遺伝情報を複製して、増えます。なので、他者の力を借りなければ増殖できない。生殖能を持っていないという点で生き物かどうか怪しいという事です。

私自身、高校の生物の授業の際に、図説でタバコモザイクウイルスに関する記載を見たときに、はっきり言って、よくわからなかったです。「何このロボットみたいの」って思ってました。

(タバコモザイクウイルス(wikiペディアより))

また、ウイルスが感染する際には、標的細胞があります。触ればだれにでも感染できるわけではないんです。例えばでいうと、猫エイズウイルスは人間には感染しません。それは、猫エイズウイルスが、人間の細胞の中に入ったり、そこの中で増殖したりという事ができないためです。

簡単に言うと、ウイルス感染には①細胞接着②細胞内増殖③ウイルス放出の三段階で感染が行われます。なので、①や②が行うことができなければ、③には至らないし、感染も起こらないという事です。

これは、今例に出したように、動物種が違ったりすると顕著ですし、同じ動物であっても、接着する細胞が異なる場合には触れたからといって感染が成立するわけではありません。例えば、喉の周辺で初期感染が起こり、増殖して、大量のウイルスがのどから血中に放出されることによって全身症状を伴う感染を引き起こすウイルスもいます。

この場合は、喉の細胞がよりウイルスに対して親和性が高く、接着しやすいために起こります。

(接着!)

接着という点に関して、途中話題になりましたがADEという言葉があります。Antibody-dependent enhancementの略ですね。これはデングウイルスなどで存在が明らかになっています。ADEというのは抗体媒介性感染増強作用のことです。

簡単に解説すると、1度感染すると、そのウイルスに対する抗体ができます。

2回目の感染では、その抗体がウイルスに付着することにより、より速やかに宿主の細胞に取り込まれて、2回目の感染なのに、むしろ症状が重篤化するという現象のことです。

(本当はもっと複雑です)

このADEの存在は、まだ憶測のレベルなので、パッと見て再感染患者は重症化することが多い感じがするからといって、「ADEだ!」と流布してしまうのは早計だと思います。

(余談ですが、ADEを引き起こすようなウイルスはワクチン開発が非常に複雑です。ADEを引き起こさない部分の抗原を探してワクチン抗原としないといけませんからね。)

人間のエイズウイルスであったとしても、組織内の細胞には接着することができますが、(やりませんが)皮膚に塗ったからといって感染が成立するわけではありません。

この点で、ウイルス感染というのは厄介に感じる部分でもありますが、ウイルス側の視点から見ると、感染が成立して増殖して、次々にほかの個体に感染が広がっていくという事は決して簡単なことではありません。

感染が成立するには、最適宿主と感染経路が確保されている必要があるという事です。また、最適宿主という言葉ですが、似た言葉にキャリアーという言葉があります。これは言葉のとおり「運ぶもの」という事なので、その生き物には感染するが、症状がない・もしくはかなり症状が軽い状態で、動き回ってしまい、ほかの生き物にウイルスを「運ぶ」もののことです。

中には脳の一部に作用して宿主の性格に作用させ、狂暴化させてほかの生物に感染を広がるといった非常に独特な感染の広げ方をするウイルスもいます。

(写真はイメージです)

キャリアーには無症候性キャリアーや、症候性キャリアー(要は、無症状か、ちょっと症状が出るか)があります。とても症状が出てしまう重症例の場合には、体調不良により身動きができなくなるので、通常他の生き物に広めることはできません。

ちょっとウイルス寄りの話をします。不謹慎ですが、ウイルスを理解するためには多面的な視野が役に立つことがありますので、想像をして読んでみてください。ウイルスが広がるためには、たくさんの機能をそろえていないといけません。

前述のように、感染ができる生き物、素早い増殖、環境抵抗性、易感染性などです。まずは、感染ができる生き物は、多い方が広がりやすいですが、たくさんの細胞にユニバーサルに感染することができるというのはかなり難しいです。同一の生き物の中でも、入りやすい細胞、入りにくい細胞があるのだから、動物種が変わったななおさらです。

さらに、増殖についてです。ウイルスも個体として自己を増殖することを目的としているようなので、なるべく早く増殖する必要があります。そのためには、たくさんの遺伝情報を有していると、増殖に時間がかかってしまいますので、遺伝情報は少ない方が増殖は速やかです。

また、速やかに増やせる遺伝情報は変異も起こりやすいため、こういったウイルスには変異がつきものです。(変異については後述します。)次いで、症状についてですが、今回の新型感染の制御の難しさの一つともいえるのが感染してから発症するまでの潜伏期間の長さです。

(遺伝子情報が多いという事は、荷物が多いという事。荷物が多いと引っ越しが大変という事と同じです。)

ウイルス側の話ですよ。不謹慎でごめんなさい。ウイルスが増えるためには、致死率は低い方がいいんです。

よりたくさんの生き物に感染して増殖したいので、感染した生き物をはじから高い致死率で殺してしまったら、早く死んでしまうのでその場から動かず、ほかの個体にも広がらないし、その死んだ個体の周囲にいる動物は感染してあっという間に死にますが、そうなったらその一帯のウイルスに感染する動物が死んでしまえば、ウイルスは増えることができなくなってしまいます。

なので、致死率がとても高いウイルスというのは、感染が広がりにくいです(例外があることを認識して理解してください)。また、咳や下痢、嘔吐といった症状が出たり、歩き回れる程度にしか感染宿主を弱らせないウイルスというのは、感染能力は高いといえます。より周囲にウイルスをまき散らしながら、ほかに感染ができる生物を探せますからね。

ほかの要因に環境抵抗性というものがあります。

ここまで、ウイルスの怖さを書きましたが、ウイルスも無敵ではありません。非常に簡素な構造のものなので、日光の紫外線や乾燥などによって保有している構造や遺伝情報が壊れてしまうことが多いんです。なので、例えば何らかのウイルスに感染して死んだ生き物が地面にいたとして、その生き物の体が分解されることには、ウイルスも壊れている可能性が高いです(死んだ細胞ではウイルスは増殖できないので。また、死後変化などで組織内のpHが変化したりほかの微生物に食べられたりするだけでも失活する可能性はあります。)

小さい小さいウイルスにとって、遺伝情報が壊れたり、構造の一部が変化してしまったりするのは致命的です。

なので、永久的に存在するウイルスというのはほぼいません(科学に100%はありません)。逆にそれだけの環境抵抗性を有しているという事は、丈夫な外郭、丈夫な遺伝情報という事なので、増殖にはかなり時間がかかるので、感染が拡大する勢いは緩徐であると考えられます。

繰り返しになりますが、パーフェクトウイルスはいません。

ただ、前述のとおり、今回の新型感染はかなり感染力が強いようなので、本当に怖いですね。

怖いポイントは、感染力の強さというのもありますが、一番は「わからない」という事です。

例えば、「インフルエンザにかかってしまった」とわかれば、体力の弱っている方でなければ、発熱や寒気、筋肉痛などの症状が出て多くは1週間から10日ほどで、改善することが予想されますよね。これは国民の多くの人が、1度はインフルエンザに感染し、治った経験からも理解していることだと思います。でも、新型感染は、まだわかっていないことがいっぱいです。わからないことは不安です。

昔は、怖がろうにも、何を怖がったらいいかもわからなかったので、そこまですごいパニックにはならなかったのでは?と感じています。現在は様々なことが科学で解明されているので「わからない」ということ自体が恐怖を巻き起こしています。感染したら、どうなるのか、再感染はするのか、どういった要因で重症化するのか、感染してからウイルスはどこで増殖して、体のどの部分から最も濃厚に排泄だれるのか、ウイルスの型はいくつあるのか、などについてです。

こういったことに対して憶測を述べることは簡単ですが、科学においては「そうである」ことを証明することも「そうでない」と証明することも非常に大変なのです。なので、「ほかのウイルスがこうだから、たぶんこうだ!」みたいな決めつける行為は良くありません。

ただ、もちろん、ウイルスというものの理解のため、その他の事例を踏まえて考慮することは重要なので、現状は専門家の方々が「様々なことを疑いながら、検証している最中」という事です。自分の見ているHPの文章が、番組のコメンテーターが、どこかの民間組織の病院のページが、真実を突き止めているわけはありません。そんな人が新型感染のすべてを理解しているなら、もう感染は制御できています。

「わかった」という事は、ウイルスの性状もそうですが、それに対する対抗手段も「わかった」ということなのですから、簡単に言えることではありませんね。将来、回顧的にその発言や内容を見て、未来に解明された事実と一致していたとしても、それは「当たった」というだけで、わかっていたわけではありません。偶然です。人間というのは自分で知りえた知識を信じてしまう傾向にあると思うので、今はそういうことはせず、冷静に生活することが重要ですね。

4、犬と猫とコロナウイルス

(イメージです。つけなくていいです。)

「ウイルスについて」で記載した考えで今回の新型感染を観察したときに、「犬と猫にはかかることは無いんじゃないの?」って思っていました。これに関して、海外では新型感染の人が飼育していた犬から、弱陽性が繰り返し観察されたという事で獣医師の間にも衝撃が走っています。

ただ、現状では新型感染というウイルスについて、犬、そして猫が前述の宿主・キャリアーなどどのような働きを担っているかが全く不明です。また、濃厚感染地域においても、犬の患者や犬が原因となって次々に人間に伝搬したという事例はまだ報告されていませんので、現状では人間と同様に密集するようなドッグランなどは避けておくといった対処方法でよいのではないか?というのが問い合わせについて答えている内容です。

また、犬と猫にはこの新型感染の騒動の前からコロナウイルスは存在していました。混合ワクチンの中にもコロナウイルスに対するワクチンが含まれていますが、残念ながらこれは腸コロナウイルスに対するワクチンなので、おそらく新型感染には効果はありません。(主流の意見として、効果はないだろうといわれています。私も効果はないと思っています。)

おそらくです。

なぜ「おそらく」とつけるかというと、繰り返しになりますが、科学に絶対はないからです。ほかのウイルス、ウエストナイルウイルスと日本脳炎ウイルスについて例を挙げてみます。この2つのウイルスは近縁の病原体ですが、同一のウイルスではありません。ウエストナイルウイルスに感染した生き物の抗体を調べると、近縁のウイルスなので構造が似ているせいか、日本脳炎ウイルスに対する抗体価も軽度に上昇することがあります。交差抗体ですね。逆もあります。

なので、違うウイルスであっても交差することがあるという事は、同じコロナウイルスであるなら、少しは効果があるかもしれないという可能性もゼロではありません。ゼロであるとまだ証明されていません。ただ、反対の事例として、インフルエンザウイルスなどは少し変異して新型インフルエンザになったりすると、これまでのインフルエンザワクチンが聞かないという事もありますので、同じウイルスであってもちょっとした変異で抗体が反応しなくなってしまうこともあるという事です。

また、他の事例で、猫のコロナウイルス感染症を例に挙げてみます。通常、猫コロナウイルスは多くの猫が保有していて、その一部が運悪く変異してしまうことによって猫伝性腹膜炎を発症(FIP)するといわれています。このFIP、病状の方によっては診断が非常に難しく、場合によっては生前診断することができないこともあります。

ウイルスはほぼ全ネコが保有していると考えられているので、コロナウイルスに対する抗体価や、コロナウイルスに対する抗原検査(ウイルスがいるかどうか調べる検査)を行ったとして、それが陽性だからといって、結局はその発見されたウイルスが、「変異を起こして病原性を発現したウイルス」なのか、「偶然発見された無害なコロナウイルス」なのかを判別する方法がないためです。

悲観的に考えると、「こういったFIPのように重篤化して致死的な症状になってしまうことがあるウイルスなので怖いな・・・」。という考えがある一方で、「犬と猫ではこんなに昔からコロナウイルス感染あるにもかかわらず、犬も猫も絶滅してないってことは、人間もいけるかな」って思ったりもしています。

5、その他の動物とコロナウイルス

人間、そして人間の生活に非常に密接に暮らしている犬と猫に対しても十分な情報が出ていませんので、フェレットやウサギ、その他の爬虫類や鳥類に対する今回の新型感染がどのように関与しているのか、無関係なのかは、現在明らかな情報は出ていません。

6、終わりに

コロナウイルスがどこから来たのか?これは世界中で分かっていませんね。ただ、可能性として高いのは、やはり野生動物からだと思います。コロナウイルスは変異が多い部類なので、人間と野生動物が何らかの形でそばにいて、ずっと「人には感染することができないコロナウイルス」に人間が濃厚接触することによって、その中の一部に「人に感染することができるような突然変異を起こしてしまったコロナウイルス」が生じて、人間に広まったのではないかな?と私は思っています(私見です)。

また、変異が多いという点から、これも憶測ですが、新型感染が起きてから、感染制御に対する世界中の認識の甘さが問題だったと日々メディアで取りざたされていますね。

もちろん、回顧的に感染発生当時を考えて、不十分であったと思える部分はありましたが、もしかしたら、当初の予想を裏切るような、爆発的に感染力を向上させるような変異がコロナウイルスの中で持続的に起きている可能性もあります。私たちがひとくくりに「新型コロナウイルス」と認識しているものの中にも、すでに「旧型」と「新型」がいるのかもしれません。

繰り返しになりますが、これは「ウイルス」っていうものを見たときに、可能性がゼロではないなという事を書いているだけで、憶測にすぎません。

早く解明してほしいものです。解明したという事は、それに対する治療薬や予防薬も出るはずですので、待ち遠しいです。コロナウイルスがなかった日常が輝いて見えますね。昔、マレーシア人の友達に、「日本は狂犬病もデングウイルスもないから安心できて住みやすいよ~」といわれました。

その時も、感染症がないことを感謝したものですが、いま改めて感じます。

感染症の危険性がないことは、幸せですね。

著者プロフィール

白井顕治(しらい けんじ)副院長

獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医

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