目次
栄養チューブとは
栄養チューブとは、ペットが口からご飯を食べられなくなった際に、水分や栄養補給を目的に設置されるチューブのことで、つける部位によって鼻カテーテル、食道チューブ、胃瘻チューブ、経腸チューブなどに分類されます。
設置するペットの活動性や性格、病状や栄養チューブを設置したい期間によってチューブの種類が選択されます。
また、病院や獣医師によって好んで設置されるチューブが異なることもあります。
栄養チューブ全般のメリット
栄養チューブのメリットは、単純です。
- 安定して食事を与えられる。
- 安定して水分を投与できる
- 確実に投薬を行うことができる
- 強制給餌や投薬によって嫌がるペットを押さえつける必要がなくなる
- 与える食事は、病状にあった療法食でも入れることができる
- 口から自分で食べたければ、食べたり飲んだりすることができる
- 不要となった場合にはチューブを抜去することができる
などがあげられます。
栄養チューブの設置はどんな時に行う?
病状が悪化した際に、病気による体調不良もありますが、栄養を取れずに衰弱が進んでしまうケースが少なくありません。
胃瘻チューブはペットが栄養をや水分を十分に自力摂食できない場合に設置を考慮します。
また、「現在は食べているが、これからほぼ確実に食欲が低下することがわかっている」場合には事前に設置することもあります。
具体的には抗がん剤治療を始める前や、口腔や顔面、頸部の手術で摂食が困難になることが予想される場合、交通事故で顔面の損傷が激しいときなどが栄養チューブを設置することを考慮するケースとしてあげられます。
栄養チューブはいつ外せる?
概念として、栄養が自分でとることができるようになったら、外すことができます。
タイミングとしては経鼻カテーテルは設置後すぐに外すことができます。
その他の栄養チューブは設置直後は外すことができませんが、2週間ほど経過すると瘻管が形成され抜去することができます。
食道チューブは、基本的に鎮静も局所麻酔もせずそのまま抜去することができます。
抜去後の穴は、そのままふさがることもあれば、一糸ほど縫合することもあります。
胃瘻チューブはチューブのメーカーにより、抜去時に全身麻酔が必要なものと、覚醒~軽度の鎮静で抜去できるものがあります。
当院で採用しているチューブは抜去に全身麻酔は必要ありません。
胃瘻チューブ抜去前です。かなり長く使用していたので、チューブが変色しています。
抜去したチューブと抜去後のチューブ設置部位です
経鼻カテーテル
経鼻カテーテルは鼻から入れるカテーテルです。
(当院ではあまり採用しないチューブなので例示できる写真はありません。動物病院によっては積極的に採用することもあるようです。「経鼻カテーテルが良い悪い」というよりかは、獣医師による好みだと思います。)
メリットとして、おとなしい性格のペットであれば鼻腔内の局所麻酔で設置できるという点があります。カテーテルは細くしなるので、ふらついたりペットの視界に入らないように接着剤で顔面の皮膚に接着させたり、縫合糸で縫い付けて固定します。
暴れてしまうような症例である場合、鎮静をかけて設置することも考えます。しかし、鎮静までかけるのであれば食道チューブを設置したほうがチューブも太く給餌したフードが詰まりにくいので、そのような症例では食道チューブ設置を考慮することが多いように思います。
デメリットとしては、チューブの径が細いため、入れられるフードの種類が限られるという点やつまりやすいという点があげられます。また、誤嚥性肺炎を起こすリスクがあります。
通例では、温厚な症例であり、必要とされる期間が短い場合に適応となります。また、食道チューブや胃瘻チューブは、短時間ですが全身麻酔を必要とします。その短時間の全身麻酔にも耐えられない可能性がある症例に対して設置できるという点もメリットといえます。
食道チューブ
食道チューブは、頸部に設置して食道に入れるチューブです。チューブの先端は食道の終わりから胃の入り口にかけて入ります。
設置には全身麻酔を必要とします。
メリットとして、鼻カテーテルよりは太いチューブを設置できますので、入れられるフードの種類がかなり増えます。また、胃瘻チューブは設置するのに内視鏡が必要なのに対し、食道チューブはそれほど特殊な器具が必要でないため、基本的にほとんどの動物病院で設置することができます。また、胃瘻チューブと比較してチューブ自体の値段が安価であるという点があげられます。
胃瘻チューブを設置した場合にはチューブを収納するために洋服を着る必要がありますが、食道チューブの場合には首に巻いた包帯に収納できますので、そこもメリットとなるかもしれません。
デメリットとして、全身麻酔が必要になるという点と、嘔吐によって食道内のチューブが反転して口から吐き出されてしまう可能性があります。
また、誤嚥性肺炎を起こすリスクがあります。頸部~食道に疾患がある場合には装着できないケースがあります。
装着する目安の期間は数週間から長いと10か月ほどつけることも可能です。
挿入するのは左右どちらの頸部でも可能です。
(※少し古い写真であり、現在は猫ちゃんに対して開口器を使用することはありません。)
チューブ設置後です
(首に包帯を巻くだけでも良かったのですが、チューブが収納しやすいのでストッキネットで洋服を作成しています。)
胃瘻チューブ
栄養チューブを設置する際に、当院で最も採用されるチューブとなります。
人医療においても設置するケースが多いため、栄養チューブの中では【胃瘻チューブ】という名称が有名なものだと思います。
胃瘻チューブのメリットとして、太いチューブが設置できる点があげられます。太いチューブと聞くと怖く感じるかもしれませんが、設置したチューブが詰まってしまうのは本当に大変なので、詰まる心配がほぼないということは大変大きなメリットといえます。また、それに伴って、ほぼすべてのフードをチューブから入れることができます。チューブの設置部位は左わき腹になります。設置部位が鼻や頸と比較して本人が気にしにくい場所であるため、ペットが自分で生活していたり、ご飯を飲み込んだりするときに邪魔に感じることが少ないです。
設置の目安期間は数か月から1~2年程度です(使用・清掃状況によります)。
デメリットとして、内視鏡がないと設置することができないという点と、チューブ自体の値段が高いという点があります。
胃に病変がある場合や、腹水貯留や腹膜炎が強い場合には設置することができない場合があります。
当院で採用しているのはMILA PEG kitです。設置後の管理がしやすい形状になっています。
装着部位は左わき腹の、最後の肋骨から2センチほど離れた場所で、ここからチューブが出ます。
チューブが出てきたところです。
このままでは使いにくいので、付属のアタッチメントで90度に曲げます。
こんな感じです。
ガーゼを挟んで設置完了です
経腸チューブ
当院ではほぼ候補にあがらない栄養チューブです。
採用されるケースとして、胃や十二指腸近位、膵臓や胆管周囲に重度の病変が存在する場合に、それらの場所を通過して小腸内に経腸用フードを給餌することによって栄養を補給することができます。
他の栄養チューブより明らかに重症度の高い症例に適応されます。また、経腸栄養はほかの栄養チューブと異なり専用の食事を給餌する必要があります。
他のチューブと目的が異なりますので、経腸チューブでしか目的を達成できない場合に採用されますので、メリットやデメリットは挙げません。
栄養チューブの設置費用は?
チューブ設置には、処置料、チューブの費用、麻酔がある場合には麻酔の費用、入院費用が加算されます。
通常費用は紹介した順に
経鼻カテーテル < 食道カテーテル < 胃瘻チューブ < 経腸チューブの順に高くなっていくことがほとんどだと思います。
また、経鼻カテーテルや食道チューブは詰まってしまったり、抜けてしまったりして、「チューブを装着したものの、結局すぐに使えなくなってしまった」ということもしばしばあります。
設置時の費用としては安く簡便に装着できても、その時の栄養要求にこたえられない量の食事しか給餌できない場合には、せっかく設置したのにあまり意味がない時もあります。
前述のとおり、設置費用が単独でというより、麻酔や設置後の管理も合わせて発生します。どのくらいの食事補助が、どのくらいの期間必要とされるのかを踏まえて、概算をかかりつけの先生と相談するのがよいと思います。
栄養チューブを設置するときの入院期間は?
動物病院とご家族様の慣れによります。
当院では、ご家族が医療従事者であったり、すでにほかのペットで栄養チューブ管理を経験したことがあるような場合には翌日~翌々日の退院となります。
その他の場合は、面会時にチューブを使う練習をしていただいて、慣れたら退院しましょうと話しています。
また、入院期間にご家族にお洋服を用意してもらうため、そのための入院期間でもあります。胃瘻チューブ後のお洋服はオンラインサイトなどで購入される方もいれば自作する方もいらっしゃります。
私は家庭科が得意なので、ご家族に作り方を教えて9割がたのご家族は自作の洋服を着ています。
平均すると4~5日で退院される方が多い印象を受けます。
まとめ
食道チューブや胃瘻チューブは入れるかどうかご家族に聞いた際はほぼすべてのご家族様が難色を示します。ただ、メリットを知っていただいてから設置するかどうかを決めてもよいかなと思いこの記事を作成しました。
また、ある程度食べるようになった後にチューブを外す提案をすると、かなり多くのご家族様がチューブを外さない選択をします。困ったときに食事や薬をチューブから入れられる安心感は大きいためです。
「栄養チューブを入れておけばよかった」と後悔することはあっても「栄養チューブを入れなければよかった」と後悔することはあまりありません。
栄養がしっかり体に入っているというのは、安心感だけでなく、実際にペットの体調もよくなります。積極的な治療を行うための体力をつけることができたり、しっかりと緩和治療ができたりする体力がつけられるのが素晴らしいことです。
主治医と相談したうえで治療方針を決めていきましょう。
著者プロフィール
白井顕治(しらい けんじ)院長
獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医
千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。