佐倉しらい動物病院ブログ

【獣医師監修】犬と猫の避妊手術の合併症について解説

犬と猫の避妊手術とは

避妊手術とは、雌犬・雌猫に対して、不妊を目的として実施する手術です。スペイと呼称している場合もあります。

避妊手術はどんな手術?

国や地域、獣医師によって実施する方法が異なります。

共通点としては全身麻酔下で実施する手術であるという点です。

摘出する臓器として、卵巣のみの場合と、卵巣と子宮を摘出する場合があります。

かなり昔は、卵巣と子宮の間を縛るのみという手術を受けた症例も拝見したことはありますが、現在推奨されている避妊手術の手技ではありません。

卵巣だけ?卵巣と子宮も?

卵巣のみ摘出する手技を実施している動物病院と、卵巣と子宮を摘出する手技を実施している動物病院に分かれると思います。

卵巣のみ摘出し、子宮を残しても問題とならないという報告も実際には出ているのですが、私個人は残された子宮に蓄膿症が発生した症例も診たことがあるため、卵巣子宮を摘出しています。

この記事においては、どちらかを推奨しているというわけではなく、情報の紹介を目的としています。

手術方法に違いはある?

手術法に関しては、腹部正中切開で通常行われる開腹手術で実施する場合と、腹腔鏡を用いた低侵襲手術で実施する方法があります(当院では腹腔鏡手術は実施しておりません)。

手術時間はどのくらい?

毛刈りや消毒などの手術の準備がありますが、手術を開始してからは獣医師の技術やペットの体の大きさによりますが、30分~1時間ほどであると考えられます。病院や獣医師によって異なりますので、各獣医師に聞いてみるとよいでしょう。

一般的に高齢で、大型犬で、胸が深く、肥満の犬程手術難易度、手術時間は長くなっていきます。

手術時に起こりえる合併症はどんなものがある?

深刻な合併症として

・卵巣へ流れている血管の処理がうまくいかずに、大量の出血を起こしてしまう

・術後に卵巣への血管の処理が外れてしまい、腹腔内で出血してしまった

・誤って尿管を処理してしまった

・卵巣を取り残してしまった

(処理とは、糸で縛る、もしくは電気メスで焼き切ってしまうことを指しています)

等が挙げられます。

合併症の多くは、獣医師が技術的に未熟であるために発生したか、小さな術創で手術を行おうとしたため、視野が狭く起こってしまったことが原因といわれています。

そのほか、一般的な手術と同様に、麻酔に関連した事故や術後の創傷管理において、うまく癒合しないといったことが生じえますが、この記事は避妊手術に関連した情報を紹介していくので割愛させていただきます。

大量の出血を起こしてしまう

出血を起こす可能性がある血管は、よほど変な個所を触らない限りは(卵巣付近もしくは子宮基部の2か所×左右)の合計4か所です。このどれかの処理が甘く、出血をさせた、もしくは、麻酔から覚醒後に、血圧上昇に伴って処理が外れ腹腔内出血をしたということになります。

血液がうまく固まらない病気だったという説明をする獣医師もいますが、血管を適切に処理していれば出血はしませんし、処理を行わないような微細な血管では血様腹水が貯留するほどは出血しないことがほとんどですので、実際にはこの4か所の血管のいずれかの処理が甘かった、もしくは関係のない太い血管を傷つけてしまった可能性が考えられます。

誤って尿管を縛ってしまった

外見上も特徴的であるし、通常の避妊手術では触れる場所ではありませんが、発生しうる合併症に挙げられます。当院では発生したことがありませんが、他院にて避妊手術後に尿毒症になってしまった状態で運ばれた症例を診察したことがあります。

術前には全く問題のなかった泌尿器や腎臓に異常が認められるため、診断は超音波検査でつけることができます。

卵巣を取り残してしまった

これについては、卵巣遺残症候群と呼ばれ、手技的なミスで取り残してしまった場合と、そうでない場合に分かれるようです。

より奥に存在する右卵巣が取り残されていることが多いため、手技的によるものが多いと考えられています。

それ以外の要因として、卵巣の再生や、副卵巣の存在が明らかとなった報告も出ていますが、報告数は多くありません。避妊手術後も定期的に発情出血が認められたり、乳腺が発達したりしている場合にはこの卵巣遺残症候群を疑います。診断は発情を起こしているであろうタイミングで雌性ホルモンを計測することによります。

避妊手術を実施したはずなのに、乳腺腫瘍が多発する場合などにも卵巣遺残症候群を疑います。

まとめ

避妊手術は比較的腹腔の奥にある卵巣と、下部にまで続く子宮を摘出する手術で、技術的難易度は中程度の手術です。

避妊手術や去勢手術は「成功して当たり前」「無事に終わって当たり前」と考えられていますが、全身麻酔での手術であることには変わりがありません。費用的な部分から、術前検査が実施されないこともありますが、きちんと検査を行って臨むことが推奨されます。

また、「早い・傷口が小さい」といったことも重要ですが、最も重要なのは問題なくきちんと手術をし終えることです。

不妊手術について疑問がある場合には、お気軽にご相談ください。

著者プロフィール

白井顕治(しらい けんじ)院長

獣医師、医学博士、日本動物病院協会(JAHA)内科認定医・総合臨床認定医

千葉県で代々続く獣医師の家系に生まれ、動物に囲まれて育って、獣医師になりました。「不安をなくす診療」を心がけて診療にあたるとともに、学会参加や後継の育成を行っています。

当院は国際ねこ医学会(isfm)よりキャットフレンドリーゴールド認定を受けている病院です。

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