実績詳細

ミニチュアダックスフントの両側乳腺全切除と子宮腺筋症

種類 ミニチュアダックスフント
年齢 14歳
診療科目 軟部外科・整形外科 腫瘍科 
症状 元気がない、陰部から排膿している

症状の概要

一般的にその生き物の寿命の7割を超えたあたりを高齢というが、今回の症例のような高齢の雌犬の生殖器疾患に対して、どうすれば最も正しいという答えはない。答えがない部分の理由として、寿命がいつまでかはわからないということ、そして、残りの寿命で病気が悪い方向に進んでしまうかどうかがわからないという点である。今回の症例のように子宮蓄膿症で発見された場合に、子宮蓄膿症は命に係わる診断名であるとともに、食欲低下、元気消失という臨床症状を呈しているため、外科療法の適応となる。その際に、「どうせ麻酔をかけるのであれば、すでに乳腺にたくさん腫瘤が形成されているので一緒に摘出しましょう」という言い方もできますし、「高齢なので命に係わる卵巣と子宮のみを摘出し、乳腺はそのままにして、悪くならないことを祈りましょう」という解釈もできます。
生き物なので、0%と100%はありません。乳腺まで切除して、無事に手術が終わるかもしれないし、麻酔時間が長くなったことによって術後に合併症を起こしてしまうかもしれません。逆に卵巣と子宮だけを摘出し、その後の寿命の間では乳腺の腫瘍は一切変化しなかったかもしれませんし、途中で悪性化し、急速に拡大して破裂してしまったり、自分で腫瘍をかじり始めてしまうという厳しい状況になってしまう可能性もあります。

どちらの可能性も考えられるため、ご家族とよく相談したうえで治療内容を決めることが非常に重要だといえます。

検査結果

症例は普段は元気活発な性格で、食欲も旺盛であった。

 

数日前より徐々に食欲が低下してきているという主訴で来院。陰部から排膿を認めたため、腹部超音波検査を実施したところ、子宮内に高いデンシティーの液体物が貯留していたため、子宮蓄膿症と判断した。

 

症例は過去に他院にて、複数回乳腺の腫瘍の摘出を行っているという既往歴があった。観察すると両側の乳腺ほぼ全域に散発的に腫瘤が形成されていた。

 

ご家族と治療内容を相談した結果、子宮蓄膿症に対して内科療法を実施しつつ、乳腺及び卵巣子宮の摘出をすることとした。

 

術前検査では、転移の兆候は認められなかった。

治療方法

 

数日間抗生剤を内服していたため、子宮は手術時にはほぼ液体貯留をしていない状態であった。

定法通り卵巣及び子宮を摘出した。

 

 

すでに摘出済みの乳腺もあるため、摘出の必要がない部位を島状に残し、残存している乳腺を腫瘤とともに摘出した。

 

摘出後、述部を縫合し手術終了とした。

治療・術後経過

術後数日間は皮下出血による色素が表れていたが、術後約7日には落ち着いていた。

 

 

術後14日後に抜糸を実施した。

 

ーーー以下病理検査所見ーーー

乳腺では、複数の結節性の腫瘤が形成されていますが、いずれも良性に分類される腫瘍です。腫瘍の境界はいずれも明瞭で、マージン部や右鼠径リンパ節への明らかな浸潤は認められません。摘出状態は良好で、今回の切除により予後は良好と考えられます。
子宮では、一部の子宮角の平滑筋層内に子宮内膜が異所性に認められ、子宮腺筋症と診断されます。性ホルモン異常が背景にある病変とされる非腫瘍性病変です。卵巣には著変は認められません。

ーーーーーー

 

通常、犬の乳腺腫瘍を確認した際には、確率的には約50%で悪性の乳腺がんであるため、腫瘤が複数個確認された場合には、いずれかの腫瘤は乳腺がんである可能性が高いといわれているが、今回の症例においてはすべての乳腺由来の腫瘤が良性であった。

 

抜糸後、術創が改善したことを確認し治療終了とした。

 

 

担当医:白井 顕治

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